ふ》という村に差し掛かった時だ。一行は朝から重い天幕《てんと》だの、写真器械だの、食糧品だの、雑嚢《ざつのう》だのを引担ぎ、既に数里の道をテクテク歩き、流るる汗は滝のごとく、身体《からだ》も多少疲れたので、このさきの大子《だいご》駅まで四、五里の間、二人ばかり荷物を担ぐ人夫を雇いたいものだ、と村中駆け回って談判に及んだが、誰も進んで行こうとする者はない。
「賃銭はいくらでも出す」と嗾《そその》かせば、
「それではいくら出す」とはや欲張る。
「一人前一円ずつ遣《や》ろう」というと、
「一円ばかしでは――、この暑いに――」と仲間|相《あい》顧みて、
「去年来た洋人《いじん》さんは、五両ずつくれったっけなァ」などと吐《ぬ》かす。
「四、五里の道に五円もくれる馬鹿は日本人には無い。それでは一円五十銭ずつ遣ろう」といっても、彼等はいつまでも煮え切らずブツブツいっているので、髯将軍の癇癪《かんしゃく》玉が忽《たちま》ち破裂して大喝一声、
「黙れッ! 馬鹿野郎、もう頼まない。ウエー、ウエー、ウエー」と、将軍独特の豚声一喝を食わせ、一行は再び重い荷物を分担してテクテクテクテク。
 吾輩は敢《あえ》て重
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