近《ちか》く船員《せんゐん》を合《あは》せると七百|人《にん》以上《いじやう》の乘組《のりくみ》であるが、其中《そのなか》で日本人《につぽんじん》といふのは夫人《ふじん》と少年《せうねん》と私《わたくし》との三|名《めい》のみ、此《この》不思議《ふしぎ》なる縁《えん》に結《むす》ばれし三人《みたり》は之《これ》から海原《うなばら》遠《とほ》く幾千里《いくせんり》、ひとしく此《この》船《ふね》に運命《うんめい》を托《たく》して居《を》るのであるが、若《も》し天《てん》に冥加《めうが》といふものが在《あ》るならば近《ちか》きに印度洋《インドやう》を※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、60−3]《すぐ》る時《とき》も支那海《シナかい》を行《ゆ》く時《とき》にも、今日《けふ》の如《ごと》く浪路《なみぢ》穩《おだや》かに、頓《やが》て相《あひ》共《とも》に※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、60−4]去《くわこ》の平安《へいあん》を祝《いは》ひつゝ芙蓉《ふよう》の峯《みね》を仰《あふ》ぐ事《こと》が出來《でき》るやうにと只管《ひたすら》天《てん》に祈《いの》るの他《ほか》はな
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