年《ひでをせうねん》との姿《すがた》も見《み》えた。少年《せうねん》は私《わたくし》を見《み》るよりいと懷《なつ》かし氣《げ》に倚子《ゐす》から立《た》つて『おはよう。』とばかり可愛《かあい》らしき頭《かうべ》を垂《た》れた。『好朝《おはよう》。』と私《わたくし》も輕《かろ》く會釋《えしやく》して其《その》傍《かたはら》[#ルビの「かたはら」は底本では「からはら」]に進《すゝ》み寄《よ》り、何《なに》となく物淋《ものさび》し氣《げ》に見《み》えた春枝夫人《はるえふじん》に眼《まなこ》を轉《てん》じ
『夫人《おくさん》、昨夜《ゆふべ》は御安眠《ごあんみん》になりましたか。』と問《と》ふと、夫人《ふじん》は微《かす》かな笑《えみ》を浮《うか》べ
『イエ、此《この》兒《こ》はよく眠《ねむ》りましたが、私《わたくし》は船《ふね》に馴《な》れませんので。』と答《こた》ふ。さもありぬべし、雪《ゆき》を欺《あざむ》く頬《ほう》の邊《へん》、幾分《いくぶん》の蒼色《あをみ》を帶《お》びたるは、たしかに睡眠《ねむり》の足《た》らぬ事《こと》を證《しよう》して居《を》る。船中《せんちゆう》朝《あさ》の食事
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