妙《たへ》なる調《しら》べにつれて唱《うた》ひ出《いだ》したる一曲《ひとふし》は、これぞ當時《たうじ》巴里《パリー》の交際《かうさい》境裡《じやうり》で大流行《だいりうかう》の『菊《きく》の國《くに》の乙女《おとめ》』とて、筋《すぢ》は日本《につぽん》の美《うる》はしき乙女《おとめ》の舞衣《まひぎぬ》の姿《すがた》が、月夜《げつや》にセイヌ[#「セイヌ」に二重傍線]河《かは》の水上《みなか》に彷徨《さまよ》ふて居《を》るといふ、極《きは》めて優美《ゆうび》な、また極《きは》めて巧妙《こうめう》な名曲《めいきよく》の一節《ひとふし》、一|句《く》は一|句《く》より華《はなや》かに、一|段《だん》は一|段《だん》よりおもしろく、天女《てんによ》御空《みそら》に舞《ま》ふが如《ごと》き美音《びおん》は、心《こゝろ》なき壇上《だんじやう》の花《はな》さへ葉《は》さへ搖《ゆる》ぐばかりで、滿塲《まんじやう》はあつと言《い》つたまゝ水《みづ》を打《う》つた樣《やう》に靜《しづ》まり返《かへ》つた。
其《その》調《しら》べがすむと、忽《たちま》ち崩《くづ》るゝ如《ごと》き拍手《はくしゆ》のひゞき、一
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