後《あと》へは退《ひ》かぬ。幾百《いくひやく》の人《ひと》は益々《ます/\》拍手《はくしゆ》する。此時《このとき》忽《たちま》ち私《わたくし》の横側《よこがは》の倚子《ゐす》で頻《しき》りに嘲笑《あざわら》つて居《を》る聲《こゑ》、それは例《れい》の鷲鳥聲《がてうごゑ》の婦人《ふじん》だ。
『何《なに》ね、いくら言《い》つたつて無益《だめ》でせうよ、琴《こと》とか三味線《さみせん》とか私共《わたくしども》は見《み》た事《こと》もない野蠻的《やばんてき》な樂器《がくき》の他《ほか》は手《て》にした事《こと》も無《な》い日本人《につぽんじん》などに、如何《どう》して西洋《せいやう》の高尚《かうしよう》な歌《うた》が唱《うた》はれませう。』などゝ態《わざ》と聽《きこ》えよがしに並《なら》んで腰掛《こしか》けて居《を》る年《とし》の若《わか》い男《をとこ》と耳語《さゝや》いて居《を》るのだ。
「不埓《ふらち》な女《をんな》めツ」と私《わたくし》は唇《くちびる》を噛《か》んだ、が、悲哉《かなしや》、私《わたくし》は其道《そのみち》には全《まつた》くの無藝《むげい》の太夫《たゆう》。あゝ此樣《こん
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