やく》を握《にぎ》る日出《につしゆつ》の。
 光《ひかり》を海《うみ》に輝《かゞや》かす。 其《その》名《な》も高《たか》き日本艦隊《につぽんかんたい》※[#感嘆符三つ、50−10]

それ日本《につぽん》は東洋《とうやう》の。 飛龍《ひりう》に似《に》たる一小邦《いつせうはう》。
 それ歐洲《をうしう》は、鯨《げい》よりも。 はた※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]《がく》よりも最《いと》猛《たけ》き。
     宇内《うだい》を睥睨《にら》む。 一大《いちだい》洲《しう》。

いぶかしや。
 大《だい》は破《やぶ》れて、小《せう》は勝《か》つ。 何故《なにゆゑ》ぞ※[#疑問符感嘆符、1−8−77]

聽《き》け。 敗將《はいしやう》の言《い》ふところ。
 彼《か》れ艦橋《かんけう》に昇《のぼ》り行《ゆ》き。 星《ほし》を仰《あほ》ぎて嘆《たん》ずらく。
  我《われ》に百萬《ひやくまん》の巨艦《きよかん》あり。 雲霞《うんか》の如《ごと》き將士《しやうし》あり。
   砲《ほう》あり。 劔《けん》あり。 火藥《くわやく》あり。
何《なん》ぞ恐《おそ》れむ日本海軍《につぽんかいぐん》。 秋《あき》の木《こ》の葉《は》の散《ち》る如《ごと》く。
 海屑《もくづ》となさん勢《いきほひ》に。 進《すゝ》むや、英《エイ》、佛《フツ》、獨《ドク》、露《ロ》艦《かん》。

思《おも》ひきや。  日本《につぽん》に不思議《ふしぎ》の魔力《まりよく》あり。
 これ。 俄砲《ガツトリングほう》か。 あらず。
 シエルブル[#「シエルブル」に二重傍線]の水雷艇《すゐらいてい》か。 あらず。
未《いま》だ見《み》ず。 未《いま》だ聞《き》かざる大軍器《だいぐんき》※[#感嘆符三つ、52−6]
 風《かぜ》のごとく來《きた》り。 風《かぜ》のごとく去《さ》り。
鯱《しやち》の魚群《ぎよぐん》を追《お》ふ如《ごと》く。 エレキ[#「エレキ」に傍線]の物《もの》を打《う》つごとく。
 見《み》よ、我《わが》艦隊《かんたい》を粉韲《うちくだ》く、 電光石火《でんくわうせきくわ》の大魔力《だいまりよく》※[#感嘆符三つ、52−9]

あゝ、 恐《おそ》るべし。 恐《おそ》るべし。
 龍《りう》は眠《ねむ》れる日本海《につぽんかい》。 黒雲《こくうん》飛《と》べる東洋《とうやう》の。
  空《そら》を劈《つんざ》く日《ひ》の光《ひかり》。 海《うみ》に潜《ひそ》める大軍器《だいぐんき》※[#感嘆符三つ、53−2]
[#ここで字下げ終わり]

と言《い》ふ樣《やう》な文句《もんく》で、隨分《ずゐぶん》奇妙《きめう》な、恐《おそ》らくは新派《しんぱ》先生《せんせい》一派《いつぱ》から税金《ぜいきん》を徴收《とり》に來《き》さうな詩《し》ではあつたが、月《つき》明《あきらか》に、風《かぜ》清《きよ》き※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《きせん》の甲板《かんぱん》にて、大佐《たいさ》軍刀《ぐんたう》の柄《つか》を後部《うしろ》に廻《まは》し、其《その》朗々《らう/\》たる音聲《おんせい》にて、誦《しよう》じ來《きた》り誦《しよう》し去《さ》つた時《とき》には、私《わたくし》は思《おも》はず快哉《くわいさい》を※[#「口+斗」、53−6]《さけ》んだよ。勿論《もちろん》、其時《そのとき》は別《べつ》に心《こゝろ》にも留《と》めなかつたが、今《いま》になつて初《はじ》めてそれと[#「それと」に傍点]思《おも》ひ當《あた》る節《ふし》の無《な》いでもない。
何《なに》は兎《と》もあれ此《この》反古《ほご》新聞《しんぶん》の記事《きじ》によると、櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》が此《この》秘密《ひみつ》なる旅行《りよかう》を企《くはだ》てたのは既《すで》に一|年《ねん》半《はん》も以前《いぜん》の事《こと》で、前《まへ》にもいふ通《とう》り私《わたくし》がまだ亞米利加《アメリカ》の[#「亞米利加《アメリカ》の」は底本では「亞利利加《アメリカ》の」]大陸《たいりく》を漫遊《まんゆう》して居《を》つた時分《じぶん》の事《こと》で、其後《そのゝち》、私《わたくし》は絶《た》えず旅《たび》から旅《たび》へと遍歴《へんれき》して居《を》つたので、此《この》珍聞《ちんぶん》を知《し》つたのも今《いま》が初《はじめ》てであるが、あゝ、大佐《たいさ》は其後《そのゝち》如何《いか》にしたであらう、遂《つひ》に其《その》目的《もくてき》を達《たつ》して再《ふたゝ》び日本《につほん》へ歸《かへ》つたであらうか。櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》は其《その》性質《せいしつ》からいつても、かゝる擧動《きよどう》に出《い》でたのは大《おほい》に期《き
前へ 次へ
全151ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング