そ》んで居《を》ればよいのです。』といふ。大佐《たいさ》の心《こゝろ》では、吾等《われら》兩人《ふたり》が意外《いぐわい》の椿事《ちんじ》の爲《た》めに、此樣《こん》な孤島《はなれじま》へ漂着《へうちやく》して、之《これ》から或《ある》年月《ねんげつ》の間《あひだ》、飛《と》ぶに羽《はね》なき籠《かご》の鳥《とり》、空《むな》しく故國《ここく》の空《そら》をば眺《なが》めて暮《くら》すやうな運命《うんめい》になつたのをば、寧《むし》ろ不憫《ふびん》と思《おも》つて居《を》るのであらう。けれど私《わたくし》は默《だま》つては居《を》られぬ。
『イヤ、左樣《さう》では無《な》いです、若《も》し秘密造船所《ひみつざうせんじよ》の仕事《しごと》に私《わたくし》の必要《ひつえう》が無《な》いなら、料理方《れうりかた》でもやります/\。』と决然《けつぜん》言放《いひはな》つと、此時《このとき》まで食卓《しよくたく》の一方《いつぽう》に、默《だま》つて私《わたくし》の顏《かほ》を眺《なが》めて居《を》つた武村兵曹《たけむらへいそう》は、突然《とつぜん》顏《かほ》を突出《つきだ》して。
『うむ、恰好事《よいこと》がある/\。』と例《れい》の頓狂聲《とんきようごゑ》
『貴方《あなた》に料理方《れうりかた》だなんて、其樣《そん》な馬鹿《ばか》らしい事《こと》が出來《でき》ますか。』と言《い》ひかけて櫻木大佐《さくらぎたいさ》に眼《まなこ》を轉《てん》じ
『大佐閣下《たいさかくか》、好《かう》機會《きくわい》です、例《れい》の一件《いつけん》、此《この》島《しま》に紀念塔《きねんたう》を建《た》てる事《こと》を依頼《いらい》しては如何《どう》でせう。』
大佐《たいさ》はポンと掌《たなごゝろ》[#ルビの「たなごゝろ」は底本では「たなじゝろ」]を叩《たゝ》いた。
『其事《そのこと》! 余《よ》も丁度《ちやうど》考《かんが》へて居《を》つた處《ところ》だ。』と私《わたくし》に向《むか》ひ
『若《も》し、君《きみ》が強《し》いて或《ある》仕事《しごと》を望《のぞ》み玉《たま》ふならば。』と徐《おもむ》ろに語《かた》り出《だ》す大佐《たいさ》の言《げん》によると。元來《ぐわんらい》此《この》孤島《はなれじま》は前《まへ》にも云《い》ふ樣《やう》に、未《ま》だ、世界輿地圖《せかいよちづ》の表面《ひやうめん》には現《あら》はれて居《を》らない程《ほど》で、櫻木大佐《さくらぎたいさ》の一行《いつかう》が、初《はじ》めて發見《はつけん》した迄《まで》は全《まつた》くの無人島《むじんとう》で、何國《いづこ》の領地《りようち》とも定《さだま》つて居《を》らぬ處《ところ》だから、國際法上《こくさいほふじやう》から言《い》つても「地球上《ちきゆうじやう》に、新《あらた》に發見《はつけん》されたる島《しま》は、其《その》發見者《はつけんしや》が屬《ぞく》する國家《こつか》の支配《しはい》を受《う》く」との原則《げんそく》で、當然《たうぜん》大日本帝國《だいにつぽんていこく》の新《しん》領地《りようち》となるべき處《ところ》である。そこで、大佐《たいさ》は今《いま》より二年《にねん》以前《いぜん》、其《その》一行《いつかう》と共《とも》に此《この》海岸《かいがん》[#ルビの「かいがん」は底本では「がいがん」]に上陸《じやうりく》した時《とき》に、先《ま》づ第一《だいいち》に此《この》島《しま》の名《な》を「朝日島《あさひじま》」と命《めい》じ、永久《えいきゆう》に大日本帝國《だいにつぽんていこく》の領土《りようど》たる可《べ》き事《こと》を宣言《せんげん》し、それより以來《いらい》、朝日《あさひ》輝《かゞや》く日《ひ》の御旗《みはた》は、絶《た》えず海岸《かいがん》の一方《いつぽう》の岬頭《みさき》に飜《ひるがへつ》て居《を》るが、さて熟々《つら/\》と考《かんが》へるに、大佐等《たいさら》が此《この》島《しま》に上陸《じやうりく》したそも/\の目的《もくてき》は、秘密《ひみつ》なる海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》を製造《せいぞう》するが爲《ため》で、艇《てい》の竣成《しゆんせい》と共《とも》に、早晩《さうばん》此處《こゝ》を立去《たちさ》らねばならぬのである[#「立去《たちさ》らねばならぬのである」は底本では「去立《たちさ》らねばならぬのである」]。無論《むろん》、立去《たちさ》つた後《あと》でも、永久《えいきゆう》に日本帝國《につぽんていこく》の領土《りようど》であるべき事《こと》は疑《うたがひ》を容《い》れぬが、茲《こゝ》に頗《すこぶ》る憂慮《ゆうりよ》に堪《た》えぬのは、今《いま》や、眼《まなこ》を放《はな》つて天下《てんか》の形勢《けいせい》を眺《なが》むるに、歐米
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