認《したゝ》めかけると、日《ひ》は暮《く》れ、日出雄少年《ひでをせうねん》も稻妻《いなづま》と、一日《いちにち》四方八方《しほうはつぽう》を走《はし》り歩《ある》いた爲《ため》に酷《ひど》く疲《つか》れて歸《かへ》つて來《き》て、私《わたくし》の膝《ひざ》[#ルビの「ひざ」は底本では「ひだ」]に恁《もた》れた儘《まゝ》、二人《ふたり》暮《く》れ行《ゆ》く空《そら》の景色《けしき》を眺《なが》めて居《を》る頃《ころ》、櫻木大佐《さくらぎたいさ》、武村兵曹《たけむらへいそう》、他《ほか》一隊《いつたい》の水兵《すいへい》は今日《けふ》の業《しごと》を終《をは》つて、秘密造船所《ひみつぞうせんじよ》から皈《かへ》つて來《き》た。
例《いつも》の事《こと》だが、此《この》日《ひ》の晩餐《ばんさん》は特《こと》に私《わたくし》の爲《ため》には愉快《ゆくわい》であつたよ。何故《なぜ》となれば昨日《きのふ》までは、如何《いか》に重要《ぢうえう》な事《こと》にしろ、櫻木大佐《さくらぎたいさ》が或《ある》秘密《ひみつ》をば其《その》胸《むね》に疊《たゝ》んで私《わたくし》に語《かた》らぬと思《おも》ふと、多少《たせう》不快《ふくわい》の感《かん》の無《な》いでもなかつたが、今《いま》は秘密造船所《ひみつぞうせんじよ》の事《こと》も、海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》の事《こと》も盡《こと/″\》く分《わか》り、且《か》つは我《わ》が敬愛《けいあい》する大佐《たいさ》は、斯《かゝ》る大秘密《だいひみつ》をも明《あきらか》に洩《もら》す程《ほど》、私《わたくし》を信任《しんにん》して居《を》るかと思《おも》ふと、嬉《うれ》しさは胸《むね》に滿《み》ち溢《あふ》れて、其《その》知遇《ちぐう》を感《かん》ずる事《こと》益々《ます/\》深《ふか》きと共《とも》[#ルビの「とも」は底本では「とき」]に、私《わたくし》の心《こゝろ》を苦《くる》しめるのは、たゞ如何《いか》にして此《この》厚意《かうゐ》に酬《むく》いんかとの一念《いちねん》。たとへ偶然《ぐうぜん》とはいへ、此《この》離《はな》れ島《じま》に漂着《へうちやく》して、斯《か》く大佐《たいさ》の家《いへ》に住《す》み、大佐《たいさ》をはじめ武村兵曹《たけむらへいそう》其他《そのほか》の水兵等《すいへいら》に一方《ひとかた》ならず世話《せわ》になつて居《を》る身《み》は、彼等《かれら》が毎日《まいにち》/\其《その》職務《しよくむ》のために心身《しんしん》を碎《くだ》いて居《を》るのを、徒《いたず》らに手《て》を拱《こまぬ》いて見《み》て居《を》るに忍《しの》びぬ。如何《いか》なる仕事《しごと》でも、私《わたくし》の力《ちから》に叶《かな》ふ相當《さうたう》の義務《ぎむ》を盡《つく》したいと考《かんが》へたので、私《わたくし》は膝《ひざ》を進《すゝ》めた。
『大佐《たいさ》よ、私《わたくし》も既《すで》に此《この》島《しま》の仲間《なかま》となつた今《いま》は、貴下等《あなたがた》の毎日《まいにち》/\の勞苦《らうく》をば、徒《いたず》らに傍觀《ぼうくわん》して居《を》るに忍《しの》びません、何《な》んでもよい。鐵材《てつざい》の運搬役《うんぱんやく》でも、蒸※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]機關《じようききくわん》の石炭《せきたん》焚《た》きでも何《な》んでもよいから、海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》の竣成《しゆんせい》するまで、私《わたくし》を然《しか》るべき役《やく》に遠慮《えんりよ》なく使《つか》つて下《くだ》さい。』と熱心《ねつしん》に語《かた》つたが、大佐《たいさ》は輕《かろ》く點頭《うなづ》くのみで
『ナニ、ナニ、决《けつ》して其樣《そん》な心配《しんぱい》は御無用《ごむよう》です、君《きみ》と日出雄少年《ひでをせうねん》とは此《この》島《しま》の賓客《ひんきやく》であれば、たゞ食《く》つて寢《ね》て、自由《じゆう》な事《こと》をして、電光艇《でんくわうてい》の竣成《しゆんせい》する日《ひ》まで、氣永《きなが》く待《ま》つて居《を》れば夫《そ》れでよいのです。』と微笑《びせう》を帶《お》びて
『海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》の製造《せいぞう》には、極《きわ》めて細密《さいみつ》なる設計《せつけい》が出來《でき》て、一人《ひとり》の不足《ふそく》をも許《ゆる》さぬ代《かは》りに、一人《ひとり》も増加《ぞうか》する必要《ひつえう》がないのです、ちやんと三十三|名《めい》の水兵《すいへい》が或《ある》年月《ねんげつ》の間《あひだ》働《はたら》いて、豫定通《よていどう》りに竣功《しゆんこう》する手續《てつゞき》になつて居《をり》ますから、君《きみ》も少年《せうねん》もたゞ遊《あ
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