う》は前《まへ》と同《おな》じ樣《やう》に其《その》扉《とびら》を押開《おしひら》くと、同時《どうじ》にサツと射込《さしこ》む日《ひ》の光《ひかり》、疑《うたがひ》もない、扉《とびら》の彼方《かなた》は明《あか》るい所《ところ》だ、兵曹《へいそう》はプツと球燈《きゆうとう》を吹消《ふきけ》す、途端《とたん》に、櫻木大佐《さくらぎたいさ》は私《わたくし》に向《むか》ひ
『此處《こゝ》です。』と一言《いちごん》を殘《のこ》して、先《ま》づ鐵門《てつもん》を※[#「穴かんむり/兪」、第4水準2−83−17]《くゞ》つた、私《わたくし》もつゞいて其《その》中《なか》に入《い》ると、忽《たちま》ち見《み》る、此處《こゝ》は、四方《しほう》數百《すうひやく》間《けん》の大洞窟《おほほらあな》で、前後左右《ぜんごさゆう》は削《けづ》つた樣《やう》な巖石《がんぜき》に圍《かこ》まれ、上部《じやうぶ》には天窓《てんまど》のやうな、巨大《おほき》な岩《いわ》の裂目《さけめ》があつて、其處《そこ》から太陽《たいやう》の光《ひかり》は不足《ふそく》なく洞中《どうちう》を照《てら》してをるのである。耳《みゝ》を傾《かたむ》けると、何處《いづく》ともなく鼕々《とう/\》と浪《なみ》の音《おと》の聽《きこ》ゆるのは、此《この》削壁《かべ》の外《そと》は、怒濤《どとう》逆卷《さかま》く荒海《あらうみ》で、此處《こゝ》は確《たしか》に海底《かいてい》數十《すうじふ》尺《しやく》の底《そこ》であらう。此塲《このば》の光景《くわうけい》のあまりに天然《てんねん》に奇體《きたい》なので、私《わたくし》は暫時《しばし》、此處《こゝ》は人間《にんげん》の境《きやう》か、それとも、世界《せかい》外《ぐわい》の或《ある》塲所《ばしよ》ではあるまいかと疑《うたが》つた程《ほど》で、更《さら》に心《こゝろ》を落付《おちつ》けて見《み》ると、總《すべ》ての構造《こうざう》は全《まつた》く小造船所《せうざうせんじよ》のやうで、宏大《くわうだい》なる洞窟《どうくつ》の中《なか》は數部《すうぶ》に分《わか》たれ、船渠《せんきよ》、起重機《きじゆうき》、製圖塲等《せいづじやうとう》の整備《せいび》はいふ迄《まで》もなく、錬鐵塲《れんてつじやう》には鎔解爐《ようかいろ》あり、大鐵槌《だいてつゝゐ》あり、鑄物塲《ちゆうぶつじやう》には造型機《ざうけいき》、碎砂機《さいしやき》を具《そな》へ、旋盤塲《せんばんじやう》には縱削機《じゆうせうき》、横削機《わうせうき》、平鉋盤《へいほうばん》、鑽孔機《さんこうき》の配置《はいち》よろしく、製罐塲《せいくわんじやう》には水壓打鋲機《すいあつだべうき》あり、工作塲《こうさくじやう》には屈撓器《くつぎようき》、剪斷機《せんだんき》あり。圓鋸機《ゑんきよき》、帶形鋸機《たいけいきよき》のほとりには、角材《かくざい》、鐵材《てつざい》山《やま》の如《ごと》く、其他《そのほか》、空氣壓搾喞筒《くうきあつさくぽんぷ》、電氣力發機等《でんきりよくはつきとう》の緻密《ちみつ》なる機械《きかい》より、銀鑞《ぎんらう》、白鑞《はくらう》、タール綱《づな》、マニラ綱《づな》、帆《ほ》縫糸《ぬひいと》、撚糸《よりいと》、金剛砂布《こんがうしやふ》、黒鉛《こくゑん》、氣發油《きはつゆう》、白絞油《はくかうゆう》、ラジーン塗具《ぬりぐ》、錆色《さびいろ》塗具《ぬりぐ》、銅板《どうばん》、鐵板《てつぱん》、鋼板《こうばん》、亞鉛塊《あゑんくわい》、ガツタバーカー板《ばん》、エボナイト板《ばん》、硝子板《せうしばん》、硝子管《せうしくわん》、舷窓用《げんそうよう》厚硝子《あつがらす》、螺旋鋲《らせんべう》、鋼※[#「金+皎のつくり」、第3水準1−93−13]鋲《こうこうべう》、眞鍮鑄鋲《しんちゆうじゆべう》、石絨衞帶《せきじゆうえいたい》、彈心衞帶等《だんしんえいたいとう》に至《いた》るまで、よくも斯《かゝ》る絶島《ぜつたう》にかく迄《まで》整然《せいぜん》たる凖備《じゆんび》の出來《でき》た事《こと》よと怪《あや》しまるゝばかりで、これ等《ら》の諸《しよ》機械《きかい》諸《しよ》材料《ざいりよう》は、すべて二|年《ねん》以前《いぜん》に、櫻木大佐《さくらぎたいさ》が大帆船《だいはんせん》浪《なみ》の江丸《えまる》に搭載《たうさい》して、此《この》島《しま》に運搬《うんぱん》し來《きた》つたもので、今《いま》はそれ/″\適當《てきたう》の位置《いち》に配置《はいち》されて、すでに幾度《いくたび》の作用《さよう》をなした形跡《けいせき》は歴然《れきぜん》と見《み》える。
此時《このとき》忽《たちま》ち私《わたくし》の眼《め》に留《とま》つたのは此《この》不思議《ふしぎ》なる洞中造船所
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