んな妙《めう》な事《こと》に托《たく》して、私共《わたくしども》の弦月丸《げんげつまる》に乘組《のりく》む事《こと》を留《と》めやうと企《くわだ》てたのです。けれど、誰《だれ》だつて信《しん》ぜられませんはねえ。船《ふね》の出發《しゆつぱつ》が魔《ま》の日《ひ》魔《ま》の刻《こく》だなんて。あゝ亞尼《アンニー》がまた妙《めう》な事《こと》をと、少《すこ》しも心《こゝろ》に止《と》めずに出帆《しゆつぱん》したのが、あんな災難《さいなん》の原因《げんゐん》となつたのです。それで、亞尼《アンニー》は、いよ/\弦月丸《げんげつまる》が沈沒《ちんぼつ》したと聞《き》いた時《とき》、身《み》も世《よ》にあられず、私共《わたくしども》に濟《す》まぬといふ一念《いちねん》と、其《その》息子《むすこ》の悔悟《くわいご》とを祈《いの》るが爲《ため》に、浮世《うきよ》の外《そと》の尼寺《あまでら》に身《み》を隱《かく》したのです。で、亞尼《アンニー》は、今《いま》は、眞如《しんによ》の月影《つきかげ》清《きよ》き、ウルピノ[#「ウルピノ」に二重傍線]山中《さんちう》の草《くさ》の庵《いほり》に、罪《つみ》もけがれもなく、此世《このよ》を送《おく》つて居《を》る事《こと》でせうが、あの惡《にく》むべき息子《むすこ》の海賊《かいぞく》は、矢張《やはり》印度洋《インドやう》の浪《なみ》を枕《まくら》に、不義《ふぎ》非道《ひだう》の業《しわざ》を逞《たくま》しうして居《を》る事《こと》でせう。』と、語《かた》り終《をは》つて、春枝夫人《はるえふじん》は明眸《めいぼう》一轉《いつてん》※[#「二点しんにょう+向」、第3水準1−92−55]《はる》かの空《そら》を仰《あほ》いだ。
私《わたくし》は思《おも》はず膝《ひざ》を叩《たゝ》いた。短慮《たんりよ》一徹《いつてつ》の武村兵曹《たけむらへいそう》は腕《うで》を鳴《なら》して、漫々《まん/\》たる海洋《かいやう》を睨《にら》み廻《まわ》しつゝ
『此處《こゝ》は所《ところ》も印度洋《インドやう》、其《その》不屆《ふとゞき》な小忰《こせがれ》めは何處《どこ》に居《を》る。』と艦上《かんじやう》の速射砲《そくしやほう》に眼《め》を注《そゝ》いで
『今《いま》は無上《むじやう》に愉快《ゆくわい》な時《とき》だぞ、今《いま》一層《いつそう》の望《のぞ》みには
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