らへいそう》の顏《かほ》を見詰《みつ》めて居《を》つたが、其《その》中《うち》の一名《いちめい》、一歩《いつぽ》進《すゝ》み出《い》でゝ、恭《うや/\》しく虎髯大尉《こぜんたいゐ》と艦長《かんちやう》とに向《むか》ひ、意味《いみ》あり氣《げ》に
『閣下《かくか》、私《わたくし》は此《この》兵曹《へいそう》に一言《いちごん》話《はな》したう厶《ござ》ります。』と言《い》ふ。
『よろしい。』と艦長《かんちやう》の許可《ゆるし》を得《え》て、水兵《すいへい》はやをら武村兵曹《たけむらへいそう》に眼《まなこ》を轉《てん》じ
『久濶《ひさし》や、兵曹《へいそう》、足下《おまへ》は本國《ほんごく》で名高《なだか》い櫻木海軍大佐閣下《さくらぎかいぐんたいさかくか》の部下《ぶか》の武村兵曹《たけむらへいそう》ではないか。』と問《と》ひかけた。武村兵曹《たけむらへいそう》と云《い》へば快活《くわいくわつ》な事《こと》と、それから砲術《ほうじゆつ》に巧《たくみ》な事《こと》と、また腕力《わんりよく》の馬鹿《ばか》に強《つよ》い事《こと》とで、日本海軍《につぽんかいぐん》の水兵仲間《すいへいなかま》には少《すく》なからず顏《かほ》の賣《う》れて居《を》つた男《をとこ》なので、今《いま》や圖《はか》らずも、天涯《てんがい》萬里《ばんり》の此《この》帝國軍艦《ていこくぐんかん》の艦上《かんじやう》にて、昔馴染《むかしなじみ》の水兵等《すいへいら》に對面《たいめん》したものと見《み》える。
兵曹《へいそう》驚《おどろ》いて眼《め》を見張《みは》り
『おゝ、乃公《おれ》は如何《いか》にも櫻木大佐閣下《さくらぎたいさかくか》の部下《ぶか》なる武村新八郎《たけむらしんぱちらう》だ。』と言《い》ひながら、額《ひたひ》を叩《たゝ》いて
『濟《す》まない、すつかり[#「すつかり」に傍点]忘《わす》れた、足下《おまへ》は誰《だれ》だつたかな。』
『前《もと》の高雄艦長《たかをかんちやう》、今《いま》は軍艦《ぐんかん》「日《ひ》の出《で》」の艦長《かんちやう》、松島[#「松島」に蛇の目傍点]海軍大佐閣下《かいぐんたいさかくか》の部下《ぶか》の信號兵《しんがうへい》だよ。』と、水兵《すいへい》は膝《ひざ》を進《すゝ》ませ
『今《いま》、松島海軍大佐閣下《まつしまかいぐんたいさかくか》は、英國《エイこく》テームス
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