《つきやぶ》られたる輕氣球《けいきゝゆう》は、水素瓦斯《すいそぐわす》の洩《も》るゝ音《おと》と共《とも》に、キリヽ/\と天空《てんくう》を舞《ま》ひ降《くだ》つて、『あはや』といふ間《ま》に、大洋《たいやう》の眞唯中《まつたゞなか》へ落込《おちこ》んだのである。
第二十六回 顏《かほ》と顏《かほ》と顏《かほ》
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帝國軍艦旗――虎髯大尉、本名轟大尉――端艇諸共引揚げられた――全速力――賣れた顏――誰かに似た顏――懷かしき顏
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輕氣球《けいきゝゆう》と共《とも》に、海洋《かいやう》の唯中《たゞなか》に落込《おちこ》んだ吾等《われら》兩人《りやうにん》は、一時《いちじ》は數《すう》十|尺《しやく》深《ふか》く海底《かいてい》に沈《しづ》んだが、幸《さひはひ》にも、落下《らくか》の速力《そくりよく》の割合《わりあひ》に緩慢《くわんまん》であつた爲《ため》と、また浪《なみ》に氣球《きゝゆう》が抵杭《ていかう》した爲《ため》に、絶息《ぜつそく》する程《ほど》でもなく、再《ふたゝ》び海面《かいめん》に浮《うか》び出《い》でゝ、命《いのち》を限《かぎ》りに泳《およ》いで居《を》ると、暫《しばら》くして、彼方《かなた》の波上《はじやう》から、人《ひと》の呼聲《よびごゑ》と、櫂《オール》の音《ね》とが近《ちか》づいて來《き》て、吾等《われら》兩人《りやうにん》は遂《つひ》に情《なさけ》ある一艘《いつそう》の端艇《たんてい》に救《すく》ひ上《あ》げられたのである。今《いま》、端艇《たんてい》を出《いだ》して、吾等《われら》の九死一生《きゆうしいつしやう》の難《なん》を救《すく》つて呉《く》れたのは、疑《うたがひ》もない、先刻《せんこく》の白色巡洋艦《はくしよくじゆんやうかん》である。
端艇《たんてい》に引上《ひきあ》げられた武村兵曹《たけむらへいそう》は、此時《このとき》忽《たちま》ち叫《さけ》んだ。
『おー。矢張《やつぱり》左樣《さう》だつた! あの巡洋艦《じゆんやうかん》のガーフの旗《はた》は、我《わ》が帝國《ていこく》の軍艦旗《ぐんかんき》であつた※[#感嘆符三つ、309−2]。』と、彼《かれ》は、今《いま》しも、輕氣球《けいきゝゆう》から墮落《ついらく》の瞬間《しゆんかん》に、ちらり[#「ちらり」に傍点]と認《みと》めた
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