ぬ程《ほど》心《こゝろ》を惱《なや》まして居《を》る、時《とき》しも忽《たちま》ち見《み》る、遙《はる》か/\の水平線上《すいへいせんじやう》に薄雲《うすぐも》の如《ごと》き煙《けむり》先《ま》づ現《あら》はれ、つゞゐて鳥《とり》か船《ふね》か見《み》え分《わ》かぬ程《ほど》、一點《いつてん》ポツンと白《しろ》い影《かげ》、それが段々《だん/″\》と近《ちか》づいて來《く》るとそは一艘《いつそう》の白色巡洋艦《はくしよくじゆんやうかん》であつた。後檣縱帆架《ガーフ》に飜《ひるがへ》る旗《はた》は、まだ朦乎《ぼんやり》として、何國《いづこ》の軍艦《ぐんかん》とも分《わか》らぬが、今《いま》や、團々《だん/\》たる黒煙《こくゑん》を吐《は》きつゝ、波《なみ》を蹴立《けた》てゝ吾《わ》が輕氣球《けいきゝゆう》の飛揚《ひやう》せる方角《ほうがく》へ進航《しんかう》して來《く》るのであつた。此時《このとき》私《わたくし》は急《きふ》に一策《いつさく》を案《あん》じた。今《いま》吾等《われら》は、重大《ぢゆうだい》の使命《しめい》を帶《お》びながら、何時《いつ》大陸《たいりく》へ着《つ》くといふ目的《あて》も無《な》く、此儘《このまゝ》に空中《くうちう》に漂蕩《へうたう》して居《を》つて、其間《そのあひだ》に空《むな》しく豫定《よてい》の期日《きじつ》を經※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、304−9]《けいくわ》してしまつた事《こと》ならば、後悔《こうくわい》臍《ほぞ》を噛《か》むとも及《およ》ぶまい。幸《さひは》ひ、彼處《あれ》に見《み》ゆる白色巡洋艦《はくしよくじゆんやうかん》、あれは何國《いづこ》の軍艦《ぐんかん》で、何處《どこ》から何處《どこ》へ指《さ》しての航海中《かうかいちう》かは分《わか》らぬが、一應《いちおう》かの船《ふね》の助《たす》けを求《もと》めては如何《どう》だらう。勿論《もちろん》、吾等《われら》が空中旅行《くうちうりよかう》の目的《もくてき》と、櫻木大佐《さくらぎたいさ》の海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》の秘密《ひみつ》とは、輕々《かろ/″\》しく外國船《ぐわいこくせん》などに覺《さと》られてはならぬが、それは臨機應變《りんきおうへん》に何《なに》とか言脱《いひのが》れの工夫《くふう》の無《な》いでも無《な》い。兎《と》も角《かく》も、
前へ 次へ
全302ページ中244ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング