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春枝夫人《はるえふじん》と、日出雄少年《ひでをせうねん》と、私《わたくし》とが、多《おほく》の身送人《みおくりにん》に袂別《わかれ》を告《つ》げて、波止塲《はとば》から凖備《ようい》の小蒸※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《こじようきせん》で、遙《はる》かの沖合《おきあひ》に停泊《ていはく》して居《を》る弦月丸《げんげつまる》に乘組《のりく》んだのは其《その》夜《よ》十|時《じ》※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、25−2]《す》ぎ三十|分《ぷん》。濱島武文《はまじまたけぶみ》と、他《ほか》に三人《みたり》の人《ひと》は本船《ほんせん》まで見送《みおく》つて來《き》た。
此《この》弦月丸《げんげつまる》といふのは、伊太利《イタリー》の東方※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船會社《とうはうきせんくわいしや》の持船《もちふね》で、噸數《とんすう》六千四百。二|本《ほん》の煙筒《えんとう》に四|本《ほん》檣《マスト》の頗《すこぶ》る巨大《きよだい》な船《ふね》である、此度《このたび》支那《シナ》及《およ》び日本《につぽん》の各港《かくかう》へ向《むか》つての航海《こうかい》には、夥《おびたゞ》しき鐵材《てつざい》と、黄金《わうごん》眞珠等《しんじゆなど》少《すく》なからざる貴重品《きちやうひん》を搭載《たうさい》して居《を》る相《さう》で、其《その》船脚《ふなあし》も餘程《よほど》深《ふか》く沈《しづ》んで見《み》えた。
弦月丸《げんげつまる》の舷梯《げんてい》へ達《たつ》すると、私共《わたくしども》の乘船《じやうせん》の事《こと》は既《すで》に乘客《じやうきやく》名簿《めいぼ》で分《わか》つて居《を》つたので、船丁《ボーイ》は走《はし》つて來《き》て、急《いそが》はしく荷物《にもつ》を運《はこ》ぶやら、接待員《せつたいゐん》は恭《うや/\》しく帽《ぼう》を脱《だつ》して、甲板《かんぱん》に混雜《こんざつ》せる夥多《あまた》の人《ひと》を押分《おしわけ》るやらして、吾等《われら》は導《みちび》かれて船《ふね》の中部《ちゆうぶ》に近《ちか》き一|等《とう》船室《せんしつ》に入《い》つた。どの※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《きせん》でも左樣《さう》だが、同《おな》じ等級《とうきふ》の船室《キヤビン》の中《うち》でも、
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