諸國《をうべいしよこく》は寸尺《すんしやく》の土地《とち》と雖《いへど》も自己《じこ》の領分《りようぶん》となさんと競《きそひ》爭《あらそ》ひ、若《も》し茲《こゝ》に、一個《いつこ》の無人島《むじんとう》でもあつて、些《いさゝ》かにても國家《こつか》の支配權《しはいけん》が完全《くわんぜん》に及《およ》んで居《を》らぬと見《み》るときは最早《もはや》國際法《こくさいほふ》の原則《げんそく》も何《なに》もあつたもので無《な》い、知《し》つても知《し》らぬ顏《かほ》[#ルビの「かほ」は底本では「なほ」]に、先占《せんせん》の人《ひと》が立《た》てたる旗《はた》をば押倒《おしたを》して、自國《じこく》の國旗《こくき》を飜《ひるがへ》し、詰《つま》る所《ところ》は大紛爭《だいもんちやく》を引起《ひきをこ》して、其間《そのあひだ》に多少《たせう》の利益《りえき》を占《し》めんと企《くわだ》てゝ居《を》る、實《じつ》に其《その》狡猾《かうくわつ》なる事《こと》言語《げんご》に絶《ぜつ》する程《ほど》だから、今《いま》櫻木大佐《さくらぎたいさ》は公明正大《こうめいせいだい》に此《この》島《しま》を發見《はつけん》し、名《なづ》けて朝日島《あさひとう》[#ルビの「あさひとう」は底本では「ちさひとう」]と呼《よ》び、之《これ》よりは我《わが》大日本帝國《だいにつぽんていこく》の領地《りようち》である事《こと》を表示《ひやうし》する爲《ため》に、幾本《いくほん》の日章旗《につしようき》を海岸《かいがん》に飜《ひるがへ》して置《お》いても、一朝《いつてう》此處《こゝ》を立去《たちさ》つた後《あと》の事《こと》は、少《すくな》からず氣遣《きづか》はれるのである。無論《むろん》、絶海《ぜつかい》の孤島《ことう》であれば、三年《さんねん》や五年《ごねん》の間《あひだ》に他國《たこく》の侵犯《しんはん》を、蒙《かうむ》るやうな事《こと》はあるまいが、安心《あんしん》のならぬは現《げん》に弦月丸《げんげつまる》の沈沒《ちんぼつ》の結果《けつくわ》、偶然《ぐうぜん》にも此《この》島《しま》に漂着《へうちやく》した吾等《われら》兩人《ふたり》の實例《じつれい》に照《てら》しても、櫻木大佐《さくらぎたいさ》の一行《いつかう》が、功成《こうな》り此處《こゝ》を立去《たちさ》つた後《あと》に、何時《いつ》他
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