ければ行《ゆ》けない處《ところ》、日出雄《ひでを》さんの樣《やう》に小《ちい》さい人《ひと》[#ルビの「ひと」は底本では「ひど」]が行《ゆ》くと、屹度《きつと》泣《な》きたくなる程《ほど》恐《こわ》い處《ところ》なんだから、默《だま》つて行《い》つたのだよ。』と言《い》ふと、日出雄少年《ひでをせうねん》は眼《め》を擦《こす》つて
『私《わたくし》は、どんな恐《こわ》い處《ところ》でも泣《な》かなくつてよ。』
『泣《な》かない※[#感嘆符疑問符、1−8−78] それは強《つよ》い! けれど今《いま》は危《あぶな》いからいけません、追付《おつつ》け成長《おほきく》なつたら、大佐《たいさ》[#ルビの「たいさ」は底本では「たいた」]の叔父《おぢ》さんも喜《よろこ》んで連《つ》れて行《い》つて下《くだ》さるでせう。サ、サ、それよりは稻妻《いなづま》も歸《かへ》つて來《き》たから、例《いつも》の樣《やう》に海濱《うみべ》へでも行《い》つて、面白《おもしろ》く遊《あそ》んでお出《い》で。』といふと日出雄少年《ひでをせうねん》は忽《たちま》ち機嫌《きげん》麗《うる》はしく、今《いま》私《わたくし》の話《はな》した眞暗《まつくら》な道《みち》や、危《あぶな》い橋《はし》の事《こと》について聞《き》きた相《さう》に顏《かほ》を上《あ》げたが、此時《このとき》、丁度《ちやうど》猛犬稻妻《まうけんいなづま》が耳《みゝ》を垂《た》れ尾《を》を掉《ふ》つて、其《その》傍《そば》へ來《き》たので、忽《たちま》ち犬《いぬ》の方《ほう》に氣《き》を取《と》られて
『稻妻《いなづま》! お前《まへ》何處《どこ》へ行《い》つたの、さあ、之《これ》から競走《かけつくら》だよ。』と、私《わたくし》の膝《ひざ》から跳《をど》つて、犬《いぬ》の首輪《くびわ》に手《て》をかけて、一散《いつさん》に磯《いそ》打《う》つ浪《なみ》の方《かた》へ走《はし》り出《だ》した。
私《わたくし》は家《いへ》に歸《かへ》り、それより終日《しゆうじつ》室内《しつない》に閉籠《とぢこも》つて、兼《かね》てより企《くわだ》てゝ居《を》つた此《この》旅行奇譚《りよかうきだん》の、今迄《いまゝで》の部分《ぶゞん》の編輯《へんしう》に着手《ちやくしゆ》して本書《ほんしよ》第三回《だいさんくわい》の「怪《あやし》の船《ふね》」の邊《へん》まで
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