ろ》も美《うる》はしく、世《よ》にも高貴《けだか》き婦人《ふじん》と思《おも》つた。
一通《ひとゝほ》りの挨拶《あいさつ》終《をは》つて後《のち》、夫人《ふじん》は愛兒《あいじ》を麾《さしまね》くと、招《まね》かれて臆《をく》する色《いろ》もなく私《わたくし》の膝許《ひざもと》近《ちか》く進《すゝ》み寄《よ》つた少年《せうねん》、年齡《とし》は八|歳《さい》、名《な》は日出雄《ひでを》と呼《よ》ぶ由《よし》、清楚《さつぱり》とした水兵《すいへい》風《ふう》の洋服《ようふく》姿《すがた》で、髮《かみ》の房々《ふさ/″\》とした、色《いろ》のくつきり[#「くつきり」に傍点]と白《しろ》い、口元《くちもと》は父君《ちゝぎみ》の凛々《りゝ》しきに似《に》、眼元《めもと》は母君《はゝぎみ》の清《すゞ》しきを其儘《そのまゝ》に、見《み》るから可憐《かれん》の少年《せうねん》。私《わたくし》は端《はし》なくも、昨夜《ゆふべ》ローマ[#「ローマ」に二重傍線]府《ふ》からの※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]車《きしや》の中《なか》で讀《よ》んだ『小公子《リツトルロー、トフオントルローイ》』といふ小説《せうせつ》中《ちう》の、あの愛《あい》らしい/\小主人公《せうしゆじんこう》を聯想《れんさう》した。
日出雄少年《ひでをせうねん》は海外《かいぐわい》萬里《ばんり》の地《ち》に生《うま》れて、父母《ちゝはゝ》の外《ほか》には本國人《ほんこくじん》を見《み》る事《こと》も稀《まれ》なる事《こと》とて、幼《いとけな》き心《こゝろ》にも懷《なつ》かしとか、※[#「りっしんべん+喜」、第4水準2−12−73]《うれ》しとか思《おも》つたのであらう、其《その》清《すゞ》しい眼《め》で、しげ/\と私《わたくし》の顏《かほ》を見上《みあ》げて居《を》つたが
『おや、叔父《おぢ》さんは日本人《につぽんじん》!。』と言《い》つた。
『私《わたくし》は日本人《につぽんじん》ですよ、日出雄《ひでを》さんと同《おな》じお國《くに》の人《ひと》ですよ。』と私《わたくし》は抱《いだ》き寄《よ》せて
『日出雄《ひでを》さんは日本人《につぽんじん》が好《す》きなの、日本《につぽん》のお國《くに》を愛《あい》しますか。』と問《と》ふと少年《せうねん》は元氣《げんき》よく
『あ、私《わたくし》は日本《につぽん》
前へ 次へ
全302ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング