處《ところ》は其處《そこ》ではあるまいか、行《ゆ》く道中《みち/\》、大佐《たいさ》はさま/″\の事《こと》を私《わたくし》に問《と》ひかけた。けれど、私《わたくし》は大佐《たいさ》の今《いま》の境遇《きやうぐう》に就《つ》いては、一言《いちげん》も問《とひ》を發《はつ》しなかつた。差當《さしあた》つて尋《たづ》ねる必要《ひつよう》も無《な》く、また容易《ようゐ》ならざる大佐《たいさ》の秘密《ひみつ》をば、輕率《けいそつ》に問《と》ひかけるのは、却《かへつ》て禮《れい》を失《しつ》すると思《おも》つたからで。然《しか》し先夜《せんや》の反古《はご》新聞《しんぶん》の記事《きじ》から推及《すいきふ》して、大佐《たいさ》が今《いま》現《げん》に浮世《うきよ》の外《そと》なる此《この》孤島《はなれじま》に在《あ》る事《こと》、また今《いま》も聽《きこ》ゆる鐵《てつ》の響《ひゞき》などから考《かんが》へ合《あ》はせると朧《おぼろ》ながらもそれと思《おも》ひ當《あた》る節《ふし》の無《な》いでもない。櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》は今《いま》[#ルビの「いま」は底本では「いは」]や此《この》島《たう》中《ちゆう》に身《み》を潜《ひそ》めて[#「身《み》を潜《ひそ》めて」は底本では「身《み》をを潜《ひそ》めて」]兼《かね》て企《くわだ》つるといふ、軍事上《ぐんじじやう》の大發明《だいはつめい》に着手《ちやくしゆ》して居《を》るのではあるまいか。讀者《どくしや》諸君《しよくん》も恐《おそ》らく此邊《このへん》の想像《さうぞう》は付《つ》くだらう。
猛狒《ゴリラ》と大奮鬪《だいふんとう》の塲所《ばしよ》から凡《およ》そ七八|町《ちやう》も歩《あゆ》んだと思《おも》ふ頃《ころ》、再《ふたゝ》び海《うみ》の見《み》える所《ところ》へ出《で》た。それから、丘陵《をか》二つ越《こ》え、一筋《ひとすぢ》の清流《ながれ》を渡《わた》り、薄暗《うすくら》い大深林《だいしんりん》の間《あひだ》を※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、149−7]《す》ぎ、終《つひ》に眼界《がんかい》の開《ひら》くる所《ところ》、大佐《たいさ》の家《いへ》を眺《なが》めた。
大佐《たいさ》の家《いへ》は、海面《かいめん》より數百尺《すひやくしやく》高《たか》き斷崖《だんがい》の上《うへ》に建《たて》ら
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