》んだと思《おも》ふ頃《ころ》、一個《いつこ》の泉《いづみ》の傍《そば》へ來《き》た。清《きよ》らかな水《みづ》が滾々《こん/\》と泉《いづ》み流《なが》れて、其邊《そのへん》の草木《くさき》の色《いろ》さへ一段《いちだん》と麗《うる》はしい、此處《こゝ》で一休憩《ひとやすみ》と腰《こし》をおろしたのは、かれこれ午後《ごゝ》の五|時《じ》近《ちか》く、不思議《ふしぎ》なる響《ひゞき》は漸《やうや》く近《ちか》くなつた。
日出雄少年《ひでをせうねん》は、其《その》泉《いづみ》の流《ながれ》に美麗《びれい》なる小魚《こざかな》を見出《みいだ》したとて、魚《うを》を追《お》ふに餘念《よねん》なき間《あひだ》、私《わたくし》は唯《と》ある大樹《たいじゆ》の蔭《かげ》に横《よこたは》つたが、いつか睡魔《すいま》に襲《おそ》はれて、夢《ゆめ》となく現《うつゝ》となく、いろ/\の想《おもひ》に包《つゝ》まれて居《を》る時《とき》、不意《ふい》に少年《せうねん》は私《わたくし》の膝《ひざ》に飛皈《とびかへ》つた。『大變《たいへん》よ/\、叔父《おぢ》さん、猛獸《まうじう》が/\。』と私《わたくし》の肩《かた》に手《て》を掛《か》けて搖《ゆ》り醒《さま》す。
『猛獸《まうじう》がツ。』と私《わたくし》は夢《ゆめ》から飛起《とびを》きた。
少年《せうねん》の指《ゆびさ》す方《かた》を眺《なが》めると如何《いか》にも大變《たいへん》! 先刻《せんこく》吾等《われら》の通※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、141−6]《つうくわ》して來《き》た黄乳樹《わうにうじゆ》の林《はやし》の中《あひだ》より、一頭《いつとう》の猛獸《まうじう》が勢《いきほい》鋭《するど》く現《あら》はれて來《き》たのである。
『猛狒《ゴリラ》!。』と私《わたくし》の身《み》の毛《け》は一時《いちじ》に彌立《よだ》つたよ。
世《よ》に獅子《しゝ》が猛烈《まうれつ》だの、狼《おほかみ》が兇惡《きようあく》だのといつて、此《この》猛狒《ゴリラ》ほど恐《おそ》ろしい動物《どうぶつ》はまたとあるまい、動物園《どうぶつゑん》の鐵《てつ》の檻《おり》の中《なか》に居《を》る姿《すがた》でも、一見《いつけん》して戰慄《せんりつ》する程《ほど》の兇相《あくさう》、それが此《この》深林《しんりん》の中《なか》で襲來《しふらい》
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