年《ひでをせうねん》は急《きふ》に歩《あゆみ》を停《とゞ》めて
『あら、あの音《おと》は?。』と眼《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた。
『音《おと》?。』と私《わたくし》も思《おも》はず立止《たちどま》つて耳《みゝ》を濟《すま》すと、風《かぜ》が傳《も》て來《く》る一種《いつしゆ》の響《ひゞき》。全《まつた》く無人島《むじんたう》と思《おも》ひきや、何處《いづく》ともなく、トン、トン、カン、カン、と恰《あだか》も谷《たに》の底《そこ》の底《そこ》で、鐵《てつ》と鐵《てつ》とが戞合《かちあ》つて居《を》るやうな響《ひゞき》。
『鐵槌《てつつい》の音《おと》!。』と私《わたくし》は小首《こくび》を傾《かたむ》けた。此樣《こん》な孤島《はなれしま》に鍛冶屋《かぢや》などのあらう筈《はづ》はない、一時《いちじ》は心《こゝろ》の迷《まよひ》かと思《おも》つたが、决《けつ》して心《こゝろ》の迷《まよひ》ではなく、寂莫《じやくばく》たる空《そら》にひゞひて、トン、カン、トン、カンと物凄《ものすご》い最早《もはや》疑《うたが》はれぬ。けれど私《わたくし》は心付《こゝろつ》くと、響《ひゞき》の源《みなもと》は决《けつ》して近《ちか》い所《ところ》ではなく、四邊《あたり》がシーンとして居《を》るので斯《か》く鮮《あざや》かに聽《きこ》えるものゝ、少《すくな》くも三四|哩《マイル》の距離《へだゝり》は有《あ》るだらう、何《なに》は兎《か》もあれ斯《かゝ》る物音《ものおと》の聽《きこ》ゆる以上《いじやう》は、其處《そこ》に何者《なにもの》かゞ居《を》るに相違《さうゐ》ない、人《ひと》か、魔性《ましやう》か、其樣《そん》な事《こと》は考《かんが》へて居《を》[#ルビの「を」は底本では「をら」]られぬ、兎《と》に角《かく》探險《たんけん》と覺悟《かくご》したので、そろ/\と丘《をか》を下《くだ》つた。丘《をか》を下《くだ》つて耳《みゝ》を澄《すま》すと、響《ひゞき》は何《な》んでも、島《しま》の西南《せいなん》に當《あた》つて一個《ひとつ》の巨大《おほき》な岬《みさき》がある、其《その》岬《みさき》を越《こ》えての彼方《かなた》らしい。
いよ/\探險《たんけん》とは决心《けつしん》したものゝ、實《じつ》は薄《うす》氣味惡《きみわる》い事《こと》で、一體《いつたい》物
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