陽《たいよう》は雲間《くもま》を洩《も》れて赫々《かく/\》たる光《ひかり》を射出《いゝだ》した。
日出雄少年《ひでをせうねん》は頑是《ぐわんぜ》なき少年《せうねん》の常《つね》とてかゝる境遇《きやうぐう》に落《お》ちても、昨夜《さくや》以來《いらい》の疲勞《つかれ》には堪兼《たへか》ねて、私《わたくし》の膝《ひざ》に凭《もた》れた儘《まゝ》、スヤ/\と眠《ねむ》りかけたが、忽《たちま》ち可憐《かれん》の唇《くちびる》を洩《も》れて夢《ゆめ》の聲《こゑ》
『あゝ、おつかさん/\、貴女《あなた》は私《わたくし》を捨《す》てゝ何處《どこ》へいらつしやるの――オ、オ、子ープルス[#「子ープルス」に二重傍線]の街《まち》と富士山《ふじさん》との間《あひだ》に、ま、ま、奇麗《きれい》な橋《はし》が――オヤ、おとつさんが私《わたくし》の名《な》を呼《よ》んでいらつしやるよ。』と少年《せうねん》は、今《いま》は夢《ゆめ》の間《ま》、懷《なつ》かしき父君《ちゝぎみ》母君《はゝぎみ》に出逢《であ》つて居《を》るのである。
あゝ、彼《かれ》が最愛《さいあい》の父《ちゝ》濱島武文《はまじまたけぶみ》は、遙《はるか》なる子ープルス[#「子ープルス」に二重傍線]で、今《いま》は如何《いか》なる夢《ゆめ》を結《むす》んで居《を》るだらう、少年《せうねん》が夢《ゆめ》にもかく戀《こ》ひ慕《した》ふ母君《はゝぎみ》の春枝夫人《はるえふじん》は、昨夜《さくや》海《うみ》に落《お》ちて、遂《つひ》に其《その》行方《ゆくかた》を失《うしな》つたが、若《も》し天《てん》に非常《ひじやう》の惠《めぐみ》があるならば萬《まん》に一つ無事《ぶじ》に救《すく》はれぬとも限《かぎ》らぬが、其儘《そのまゝ》海《うみ》の藻屑《もくづ》と消《き》えて、其《その》魂《たましひ》が天《てん》に歸《かへ》つたものならば、此後《このゝち》吾等《われら》は運命《うんめい》よく無事《ぶじ》に助《たす》かる事《こと》があらうとも、日出雄少年《ひでをせうねん》は夢《ゆめ》の他《ほか》は、またと懷《なつ》かしき母君《はゝぎみ》の顏《かほ》を見《み》る事《こと》が出來《でき》ぬであらう、斯《か》う考《かんが》へると、私《わたくし》は無限《むげん》に哀《かな》しくなつて、はふり落《お》つる涙《なみだ》が日出雄少年《ひでをせうねん》の顏《かほ》
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