の「咼」に代えて「咼の左右対称」、99−3]《あやま》つても、屡々《しば/\》驚怖《きやうふ》すべき衝突《しようとつ》を釀《かも》すのに、底事《なにごと》ぞ、怪《あやし》の船《ふね》海蛇丸《かいだまる》は、今《いま》や我《わ》が弦月丸《げんげつまる》の指《さ》して行《ゆ》く同《おな》じ鍼路《しんろ》をば故意《わざ》と此方《こなた》に向《むかつ》て猛進《まうしん》して來《く》るのである、一|分《ぷん》、二|分《ふん》、三|分《ぷん》の後《のち》は一大《いちだい》衝突《しようとつ》を免《まぬ》かれぬ運命《うんめい》※[#感嘆符三つ、99−6]
船長《せんちやう》も一等運轉手《チーフメート》も度《ど》を失《うしな》つて、船橋《せんけう》を驅《か》け上《あが》り、驅《か》け降《くだ》り、後甲板《こうかんぱん》に馳《は》せ、前甲板《ぜんかんぱん》に跳《おど》り狂《くる》ふて、聲《こゑ》を限《かぎ》りに絶叫《ぜつけう》した。水夫《すゐふ》。火夫《くわふ》、船丁等《ボーイら》の周章狼狽《しうしようらうばい》は言《い》ふ迄《まで》もない、其内《そのうち》に乘客《じやうきやく》も※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、99−9]半《くわはん》睡眠《ねむり》より醒《さ》めて、何事《なにごと》ぞと甲板《かんぱん》に走《はし》り出《い》でんとするを、邪魔《じやま》だ/\と昇降口《しようかうぐち》の邊《へん》より追返《おひかへ》さんと※[#「口+曹」、第3水準1−15−16]《ひしめ》く二三|船員《せんゐん》の聲《こゑ》も聽《きこ》える。本船《ほんせん》は連續《つゞけさま》に爆裂信號《ばくれつしんがう》を揚《あ》げ、非常※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]笛《ひじやうきてき》を鳴《な》らし、危難《きなん》を告《つ》ぐる號鐘《がうしやう》は割《わ》るゝばかりに響《ひゞ》き渡《わた》つたけれど、海蛇丸《かいだまる》は音《おと》もなく、ずん/\と接近《せつきん》して來《く》るばかりである。本船《ほんせん》の舵手《だしゆ》は狂氣《きようき》の如《ごと》くなつて、鍼路《しんろ》を右《みぎ》に左《ひだり》に廻轉《くわいてん》したが何《なん》の甲斐《かひ》も無《な》い。此方《こなた》※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]角《きかく》短聲《たんせい》一發《いつぱつ》、鍼路《しんろ》を
前へ 次へ
全302ページ中82ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
押川 春浪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング