えず[#「絶《た》えず」は底本では「絶《た》えす」]探海電燈《サーチライト》の閃光《ひかり》を射出《しやしゆつ》して、或《あるひ》は天空《てんくう》を照《てら》し、或《あるひ》は其《その》光《ひかり》を此方《こなた》に向《む》け、又《また》は海上《かいじやう》の地理《ちり》形况等《けいけうとう》を探《さぐ》るにやあらん、我《わ》が弦月丸《げんげつまる》が指《さ》して行《ゆ》く航路《かうろ》の海波《なみ》を照《てら》しつゝ、ずん/″\と前方《かなた》に駛《はし》り去《さ》つた。本船《ほんせん》は今《いま》は却《かへつ》て其《その》後《あと》を追《お》ふのである。
稍《や》や十|分《ぷん》も※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、97−4]《す》ぎたと思《おも》ふ頃《ころ》二船《にせん》の間《あひだ》は餘程《よほど》距《へだ》たつた。私《わたくし》は思《おも》はず一息《ひといき》ついた、『矢張《やはり》無益《むえき》の心配《しんぱい》であつたか』と少《すこ》しく胸《むね》撫《な》でおろす、其時《そのとき》、私《わたくし》はふと[#「ふと」に傍点]心付《こゝろつ》いたよ、先刻《せんこく》までは極《きは》めて動搖《ゆるぎ》平穩《おだやか》であつた我《わ》が弦月丸《げんげつまる》は何時《いつ》の間《ま》にか甲板《かんぱん》も傾《かたむ》くばかり激《はげ》しき動搖《ゆるぎ》を感《かん》じて居《を》るのであつた。眺《なが》めると闇黒《あんこく》なる右舷《うげん》左舷《さげん》の海上《かいじやう》は尋常《たゞ》ならず浪《なみ》荒《あら》く、白馬《はくば》の如《ごと》き立浪《たつなみ》の跳《をど》るのも見《み》える。印度洋《インドやう》とて千尋《せんじん》の水深《ふかさ》ばかりではない、斯《か》く立浪《たつなみ》の騷《さわ》いで居《を》るのは、確《たしか》に其邊《そのへん》に大暗礁《だいあんせう》の横《よこたは》つて居《を》るとか、今《いま》しも我《わ》が弦月丸《げんげつまる》の進航《しんかう》しつゝある航路《かうろ》の底《そこ》は一面《いちめん》の大海礁《だいかいせう》で蔽《おほ》はれて居《お》るのであらう。
大暗礁《だいあんせう》! 大海礁《だいかいせう》! たとへ船《ふね》を坐礁《のりあげ》る程《ほど》でなくとも、此邊《このへん》の海底《かいてい》の淺《あさ》い事《こと》
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