》平穩《おだやか》な海上《かいじやう》で難破《なんぱ》するやうな船《ふね》は全《まつた》く我等《われ/\》海員《かいゐん》の仲間以外《なかまはづれ》です、何《なに》も面倒《めんだう》な目《め》を見《み》て救助《きうじよ》に赴《おもむ》く義務《ぎむ》は無《な》いのです。』と言《い》つて空嘯《そらぶ》き笑《わら》つた
最早《もはや》問答《もんだう》も無益《むえき》と思《おも》つたから、私《わたくし》は突然《ゐきなり》船長《せんちやう》を船室《ケビン》の外《そと》へ引出《ひきだ》した
『あれが見《み》えませんか、あれが、あの悲慘《ひさん》なる信號《しんがう》の光《ひかり》を見《み》て何《なに》とも感《かん》じませんか。』とばかり、遙《はる》かに指《ゆびさ》す左舷船尾《さげんせんび》の海上《かいじやう》。私《わたくし》は『あツ。』と叫《さけ》んだまゝ暫時《しばらく》開《あ》いた[#「開《あ》いた」は底本では「開《あ》たい」]口《くち》も塞《ふさ》がらなかつたよ。審《いぶ》かしや。今《いま》から二分《にふん》三分《さんぷん》前《まへ》までは確《たしか》に閃々《せん/\》と空中《くうちう》に飛《と》んで居《を》つた難破信號《なんぱしんがう》の火光《ひかり》は何時《いつ》の間《ま》にか消《き》え失《う》せて、其處《そこ》には海面《かいめん》より數《すう》十|尺《しやく》高《たか》く白色球燈《はくしよくきうとう》輝《かゞや》き、船《ふね》の右舷《うげん》左舷《さげん》と覺《お》ぼしき處《ところ》に緑燈《りよくとう》、紅燈《こうとう》の光《ひかり》がぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]と見《み》ゆるのみである。前檣《ぜんしやう》に白燈《はくとう》、右舷《うげん》に緑燈《りよくとう》、左舷《さげん》に紅燈《こうとう》は言《い》ふ迄《まで》もない、安全航行《あんぜんかうかう》の信號《しんがう》※[#感嘆符三つ、81−11]
『はゝあ、或程《なるほど》、星火榴彈《せいくわりうだん》に一次《いちじ》一發《いつぱつ》の火箭《くわせん》、救助《きゆうじよ》を求《もと》むる難破船《なんぱせん》の信號《しんがう》がよく見《み》えます、貴下《あなた》の眼は仲々《なか/\》結構《けつこう》な眼《め》です。』と意地惡《ゐぢわる》き船長《せんちやう》はぢろり[#「ぢろり」に傍点]ッと私《わたくし》の顏《かほ》を
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