《さは》いで居《を》つたが、丁度《ちやうど》其時《そのとき》船橋《せんけう》の上《うへ》で、無法《むはふ》に水夫等《すゐふら》を叱付《しかりつ》けて居《を》つた人相《にんさう》の惡《わる》い船長《せんちやう》の帽子《ぼうし》を、其《その》鳶糸《たこいと》で跳飛《はねと》ばしたので、船長《せんちやう》は元來《ぐわんらい》非常《ひじやう》に小八釜《こやかま》しい男《をとこ》、眞赤《まつか》になつて此方《こなた》に向直《むきなほ》つたが、あまりに無邪氣《むじやき》なる日出雄少年《ひでをせうねん》の姿《すがた》を見《み》ては流石《さすが》に怒鳴《どな》る事《こと》も出來《でき》ず、ぐと/″\口《くち》の中《うち》で呟《つぶや》きながら、其《その》ビール樽《だる》のやうな身體《からだ》を轉《まろ》ばして、帽子《ぼうし》の後《あと》を追《お》ひかけた話《はなし》など、いろ/\變《かは》つた事《こと》もあるが、餘《あま》り管々《くだ/″\》しくは記《しる》すまい。
かくて吾等《われら》の運命《うんめい》を托《たく》する弦月丸《げんげつまる》は、アデン[#「アデン」に二重傍線]灣《わん》を出《い》でゝ印度洋《インドやう》の荒浪《あらなみ》へと進入《すゝみい》つた。

    第六回 星火榴彈《せいくわりうだん》
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難破船の信號――イヤ、流星の飛ぶのでせう――無稽な三個の船燈――海幽靈め――其眼が怪しい
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 荒浪《あらなみ》高《たか》き印度洋《インドやう》に進航《すゝみい》つてからも、一日《いちにち》、二日《ふつか》、三日《みつか》、四日《よつか》、と日《ひ》は暮《く》れ、夜《よ》は明《あ》けて、五日目《いつかめ》までは何事《なにごと》もなく※[#「過」の「咼」に代えて「咼の左右対称」、71−12]去《すぎさ》つたが、其《その》六日目《むいかめ》の夜《よる》とはなつた。私《わたくし》は夕食後《ゆふしよくご》例《いつも》のやうに食堂《しよくだう》上部《じやうぶ》の美麗《びれい》なる談話室《だんわしつ》に出《い》でゝ、春枝夫人《はるえふじん》に面會《めんくわい》し、日出雄少年《ひでをせうねん》には甲比丹《カピテン》クツク[#「クツク」に傍線]の冐瞼旅行譚《ぼうけんりよかうだん》や、加藤清正《かとうきよまさ》の武勇傳《ぶゆうでん》や、また私《わ
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