《しゆつこう》までは未《ま》だ十|時間《じかん》以上《いじやう》。長《なが》い旅行《りよかう》を行《や》つた諸君《しよくん》はお察《さつ》しでもあらうが、知《し》る人《ひと》もなき異境《ゐきやう》の地《ち》で、※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]車《きしや》や※[#「さんずい+氣」、第4水準2−79−6]船《きせん》の出發《しゆつぱつ》を待《ま》ち暮《くら》すほど徒然《つまら》ぬものはない、立《た》つて見《み》つ、居《ゐ》て見《み》つ、新聞《しんぶん》や雜誌等《ざつしなど》を繰廣《くりひろ》げて見《み》たが何《なに》も手《て》に着《つ》かない、寧《いつ》そ晝寢《ひるね》せんか、市街《まち》でも散歩《さんぽ》せんかと、思案《しあん》とり/″\窓《まど》に倚《よ》つて眺《なが》めると、眼下《がんか》に瞰《み》おろす子ープルス[#「子ープルス」に二重傍線]灣《わん》、鏡《かゞみ》のやうな海面《かいめん》に泛《うか》んで、出《で》る船《ふね》、入《い》る船《ふね》[#「船《ふね》」は底本では「般《ふね》」]停泊《とゞま》つて居《ゐ》る船《ふね》、其《その》船々《ふね/″\》の甲板《かんぱん》の模樣《もやう》や、檣上《しやうじやう》に飜《ひるがへ》る旗章《はたじるし》や、また彼方《かなた》の波止塲《はとば》から此方《こなた》へかけて奇妙《きめう》な風《ふう》の商舘《しやうくわん》の屋根《やね》などを眺《なが》め廻《まわ》しつゝ、たゞ譯《わけ》もなく考想《かんが》へて居《を》る内《うち》にふと思《おも》ひ浮《うか》んだ一事《こと》がある。それは濱島武文《はまじまたけぶみ》といふ人《ひと》の事《こと》で。
濱島武文《はまじまたけぶみ》とは私《わたくし》がまだ高等學校《かうとうがくかう》に居《を》つた時分《じぶん》、左樣《さやう》かれこれ十二三|年《ねん》も前《まへ》の事《こと》であるが、同《おな》じ學《まな》びの友《とも》であつた。彼《かれ》は私《わたくし》よりは四つ五つの年長者《としかさ》で、從《したがつ》て級《くみ》も異《ちが》つて居《を》つたので、始終《しじう》交《まぢは》るでもなかつたが、其頃《そのころ》校内《かうない》で運動《うんどう》の妙手《じやうず》なのと無暗《むやみ》に冐險的旅行《ぼうけんてきりよかう》の嗜好《すき》なのとで、彼《かれ》と私《わたくし》と
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