る纜あげて
わが怒りの発たんとするに
いまぞ擾乱のあくなき海はあやしとも
ぼーうおーうの叫びしきりなり
見えわかぬ無垢の道
冬ブルキの雲間にいりて
非情の友は最末の日縊れたり
かかるとき蒼茫の日なかにかくれて
何者かわれにせまらんとすなり


  無題

醒めがたき虚妄に身をゆだねつゝ
わが飢ゑの深まりゆくを
日はすでに奪はれて
げにあとかたもなき水脈のおそろし
くろがねの冬の砦は手にとらば一片の雲となるべく
手にとらばわが飢ゑも血をなせる灰とならむを
かくてまた
醒めがたき日を享けつがば
なにをもてわが歌のうたはれん


  無題

夏は爛燦の肉をやぶれど声なく
われは仮相の作者にすぎざるなり
痺れる水もとうめいに炎をひとたび上げたれど
眼に蒼緑のにがき光をうがちなば
あはれ酔ふこともならじ
迅速のつばさはいや涯の杳き渦流に墜ちんとして
肉のうちをつらぬかば擾然たるを
日ごろむなしきことのみを歌ひ
そが夢のおどろしさに狂奔するものの傷ましきかな


  無題

秋はみづいろにはがねをなせど
わが眼にくらく辰砂の方陣はみだれおち
岩巣にたちくらむ豺のごと
ひさしく激情のやまざるかな

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