ニ 頽《ナガ》レコムノダ
アア コノ夕暮ノケハシイ思ヒ
冷タイ明眸ニブキミナ微笑ヲタタエル君ノ
スルドク額ヲ刳ルモノ 何トイフソノ邪悪デアラウカ
椅子ノモツレタ位置カラ遠ク 鉄ノ滲ミイル屈折カラ
塩ノムゲンナ様子ガシレテ 今コソ
ベエリングハ真向カラノ封鎖ダ
霙フリヤマズ 夜トナル


  ナマ

徹夜の大道はゆるやかに異様にうねり、うねるままに暗暈の、氷る伽藍のはてに沈まうとする。道は遠くこの一筋に尽きて、地と海との霾然たる、また人間の灰神楽。飛び交ひなだれ堕ちる星晨や殺気のむらむらや、それら撃発する火のやうな寂しさのなかに、己は十字火に爛れた生《な》まをつき放さうとするのだ。おお、集積《マワス》の眼! 不眠の河となつて己を奪つたすゑは、むざんに溷濁の干潟に曝し、滄々たる季節の下にいまとはなつたが、挑みかからうと己みづからが空をつく。何者へ対つてか、嗤へ、長年漂泊にあらび千切れた胸の底に捉へやうとする、生きがたい、夢の燔祭。埓もない見てくれの意匠も旧い日のことになつた。
神々といふあの手から離れてここに麻のやうな疲れが横たはる。

あたらしひ希ひを言へと、誰がみ近く呼ばふのだ。
氷霧
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