逸見猶吉詩集
逸見猶吉

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)天末線《スカイライン》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)暴|戻《レイ》ノ季節ヨ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]

※底本の本文中に使われている《》の記号は、ルビを表す記号と重複しているため、〈〉に置き換えました。
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  報告(ウルトラマリン第一)

ソノ時オレハ歩イテヰタ ソノ時
外套ハ枝ニ吊ラレテアツタカ 白樺ノヂツニ白イ
ソレダケガケワシイ 冬ノマン中デ 野ツ原デ
ソレガ如何シタ ソレデ如何シタトオレハ吠エタ
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
〈血ヲナガス北方 ココイラ グングン 密度ノ深クナル
[#ここから2字下げ]
北方 ドコカラモ離レテ 荒涼タル ウルトラマリンノ底ノ方ヘ――〉
[#ここで字下げ終わり]
暗クナリ暗クナツテ 黒イ頭巾[#「頭巾」は底本では「頭吊」と誤植]カラ舌ヲダシテ
ヤタラ 羽搏イテヰル不明ノ顔々 ソレハ目ニ見エナイ狂気カラ転落スル 鴉ト時間ト アトハ
サガレンノ青褪メタ肋骨ト ソノ時 オレハヒドク
凶ヤナ笑ヒデアツタラウ ソシテ 泥炭デアルカ
馬デアルカ 地面ニ掘ツクリ返サレルモノハ 君モシル ワヅカニ一点ノ黒イモノダ
風ニハ沿海州ノ錆ビ蝕サル気配ガツヨク浸ミコンデ 
野ツ原ノ涯ハ監獄ダ 歪ンダ屋根ノ 下ハ重ク 鉄柵ノ海ニホトンド何モ見エナイ
絡ンデル薪ノヤウナ手ト サラニソノ下ノ顔ト 大キナ苦痛ノ割レ目デアツタ
苦痛ニヤラレ ヤガテ霙トナル冷タイ風ニ晒サレテ
アラユル地点カラ標的ニサレタオレダ
アノ強暴ナ羽搏キ ソレガ最後ノ幻覚デアツタラウカ
弾創ハスデニ弾創トシテ生キテユクノカ
オレノ肉体ヲ塗抹スル ソレガ悪徳ノ展望デアツタカ
アア 夢ノイツサイノ後退スル中ニ トホク烽火ノアガル 嬰児ノ天ニアガル
タダヨフ無限ノ反抗ノ中ニ
ソノ時オレハ歩イテヰタ
ソノ時オレハ歯ヲ剥キダシテヰタ
愛情ニカカルコトナク ※[#「さんずい+弥」、231−下−19]漫スル怖ロシイ痴呆ノ底ニ
オレノヤリキレナイ
イツサイノ中ニ オレハ見タ
悪シキ感傷トレイタン無頼ノ生活ヲ
アゴヲシヤクルヒトリノ囚人 ソノオレヲ視ル嗤ヒヲ
スベテ痩セタ肉体ノ影ニ潜ンデルモノ
ツネニサビシイ悪ノ起源ニホカナラヌソレラヲ
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
〈ドコカラモ離レテ荒涼タル北方ノ顔々 ウルトラマリンノスルドイ目付
[#ここから2字下げ]
ウルトラマリンノ底ノ方ヘ――〉
[#ここで字下げ終わり]
イカナル真理モ 風物モ ソノ他ナニガ近寄ルモノゾ
今トナツテ オレハ堕チユク海ノ動静ヲ知ルノダ


  兇牙利的(ウルトラマリン第二)

レイタンナ風ガ渡リ
ミダレタ髪毛ニ苦シク眠ル人ガアリ
シバラク太陽ヲ見ナイ
何処カノ隅デ[#「デ」は底本では「で」と誤植]饒舌ルノハ気配ダケカ
毀ワレタ椅子ヲタタイテ
オレノ充血シタ眼ニイツタイ何ガ残ル
サビシクハナイカ君 君モオレヲ対手ニシナイ
窓カラ見ル野末ニ喚イテル人ガアリ
ソノ人ハ顔ダケニナツテ生キテユキ ハツハ
オレハ不逞々々シクヨゴレタ外套ヲ着テル
酔フタメニ何ガ在ル
暴力ガ在ル 冬ガ在ル 売淫ガ在ル
ミンナ悪シキ絶望ヲ投ゲルモノニ限リ
悪シク呼ビカケルモノニ限リ
アア レイタンナ風ガ渡リ
オレノ肉体ハイマ非常ニ決闘ヲ映シテヰル


  死ト現象(ウルトラマリン第三)

雲母《キララ》ノ下ノ天末線《スカイライン》
曝サレテヰル骨ノ自暴
ソコニ死ノヤウナモノガアル
ヤミガタイ息ヅマル堅勒ノ胸盤ガアル
 〈硝子ノ翼・硝子ノ血 コノ感情ニナダレコム冬〉
透明ノ底ニ拡ガルモノ 滲ミ入ルモノ
機械ノ一点ニ恒ニレイゼント狙ハレテアルモノ
アア世界ヲ充顛スル非情ノ眼ヨ
君ハ見ルカ 君自身ノ狂遇ヲ蹴落スコトガ出来ルカ
君ノ内部ニ氾濫スルマラリアノ愛 ソレスラモナホ季節ハ残シテユク
ウルトラマリンノ風ガ堕チ
ウルトラマリンノ激シイ熱ノ勃ルトコロ
ヤガテハ燃焼スル
彼処荒茫タル風物ノ奥デ ソノスルドキ怒リニ倒レテアルモノハ何カ
俺ハ感ジル 石炭ノヤウニツライ純潔ヲ ソノ火力ヲ
俺ハ知ル 海豹ノヤウニ歯向フ方角ヲ ソシテ今
冬ハアレラ傷メル河河ニ額ヲヌラシテヰルノダ
北地ノバリバリシタ気圏ノナカ ソノキビシイ肩ヲスベリ
際涯トホク沈ム汽車ノ隅カラ俺ハ遙ルカナ雲ヲ測ロウ

   ★

凄イ暴力ハナイカ
自分ヲ視ルコノ瞬間ハ恐ロシイ
ソレハ苦痛ヨリモ絶体デアル 風ニ靡ヒテ何処ヘ往ク
原因ノアル処ニ生キテ逆転セザル妄想ヲ深メテ生ノ荒々シイ
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