]《ハゲ》シイ天幕カラ 露ハナ足ヲ突キ出シテヰル
臨海屈折ヲ犯シテヰルノダ 熾ンナル風陣ヲ劈イテ
刀背《ミネ》ノヤウナ眩暈ガメグリ
ソノ煌ク探究ノ底ヲ ジツニ 生キルモノノガントシタ所在
世界ハ恐ルベキモノニ充チテヰル コノ世界ノ
隅々カラ 何ガ腕ヲモツテ オレタチニ呼ビカケルノカ
息マザル悪熱ヨ オオ君コソハ生キル
[#ここから1字下げ]
〈ドス黒イ咽喉ノオクカラ
唐突ナ笑ヒヲ叫ンデヰルギブスナドガ スベテ
剥裂シテ投ゲダサレ 両腕ヲダラリト喇叭ノヤウニ
醜ク欠ケテヰル コレハマタ何トイフ愚カシイ反覆――
錆ビタル車輪ノ空転ヨ
雲ヲ斑スル戦慄[#底本では「慄」が脱字]ノ羊歯ヨ
耐エガタイコノ沸キタツ風物カラ ワヅカ 非常ノ爆鳴ガシレテ
唯一ナル生ノ切リ口ニ 鋼《ハガネ》ノゴトク手触レルデアラウ〉
[#ここで字下げ終わり]
ヂリヂリト兇猛ナモノガ血脈ニ逆巻キ
頸ヲソグ飢餓ノ飾リナク 無為ノ脳漿ニ翼折ラレ オレハ自ラノ
腹立タシイ重量ヲ負ツテ コノ※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]シイ天幕カラ 遠望ノ限リヲ翔ケテユカウ
暴々タル視野ヲ踏ミコエ 雷ニ撃タレタ兇牙利ノ 水ノヤウナ跳梁
夢ハソレ以外ノ何デアラウカ
群レユク不明ノ季候鳥 流レル冷タイ騒擾ノ翳リ
イツサイノ狂妄ハ点火サレ 墜落ニヨツテノミ 激シク燃焼スルノダ
トホク歪曲スル方向ノ深サ ソノ息ヲノム陥没カラ
逆ニ吹キ上ゲテクルウルトラマリン
目眦ヲ裂ク 親愛ニ昂ル オレハ荒擾タル現象ノ背骨ヲ
アクマデ無慚ニ押シ分ケテユクマデダ
見ヨシジマナル狼藉ノ所在ニ イチメン澱ミナク氾流スル天ノ砂州
冬ヲ荒ス微塵ノ
偏奇スル透明ノ
自ラノ笑ヒノナカニ オレハ最後ノ放擲ヲ受ケル
ベエリング
――親愛の人G・Bニ――[#この行は文字小さく]
霙フル
ドツト傾ク
屋根ノムカフ 白楡ノ叫ビニ耳ヲタテテヰル昏イ
憂愁ノヒト時ヲ 荊棘ノヤウニ悪ク酔ツテルノダオレハ
灰ノヤウナヒカリガ立チ罩メ 君ハモウ酒杯ヲ
トラウトシナイ 起チアガル オレヲ看ル
オレタチヲ冒シテル蒼褪メタベエリング
憎シミハモウ形ヲトラナイ
扉《ト》ヲアケハナテ〈無意味ナル警笛《サイレン》ヨ〉
撃テ〈霙フルナカノ永遠ノ明日〉
オレノ悲シイ懶怠カラ タダ
純粋ニ血ヲ流ス日ノ ヴイジョンヲ遮ギル氷海《フィルノ》ガ
総身ヲ削ツテドンランニ 頽《ナガ》レコムノダ
アア コノ夕暮ノケハシイ思ヒ
冷タイ明眸ニブキミナ微笑ヲタタエル君ノ
スルドク額ヲ刳ルモノ 何トイフソノ邪悪デアラウカ
椅子ノモツレタ位置カラ遠ク 鉄ノ滲ミイル屈折カラ
塩ノムゲンナ様子ガシレテ 今コソ
ベエリングハ真向カラノ封鎖ダ
霙フリヤマズ 夜トナル
ナマ
徹夜の大道はゆるやかに異様にうねり、うねるままに暗暈の、氷る伽藍のはてに沈まうとする。道は遠くこの一筋に尽きて、地と海との霾然たる、また人間の灰神楽。飛び交ひなだれ堕ちる星晨や殺気のむらむらや、それら撃発する火のやうな寂しさのなかに、己は十字火に爛れた生《な》まをつき放さうとするのだ。おお、集積《マワス》の眼! 不眠の河となつて己を奪つたすゑは、むざんに溷濁の干潟に曝し、滄々たる季節の下にいまとはなつたが、挑みかからうと己みづからが空をつく。何者へ対つてか、嗤へ、長年漂泊にあらび千切れた胸の底に捉へやうとする、生きがたい、夢の燔祭。埓もない見てくれの意匠も旧い日のことになつた。
神々といふあの手から離れてここに麻のやうな疲れが横たはる。
あたらしひ希ひを言へと、誰がみ近く呼ばふのだ。
氷霧に蝕む北方の屋根に校倉《あぜくら》風の憂愁を焚きあげて、屠られた身の影ともない安手の虚妄をみてとつたいま、なんと恐ろしいものだけだらうか。原罪の逞《ふと》い映像にうち貫かれた両の眼に、みじろぎもなく、氷雪いちめんの深い歪《ひづ》みをたたえて秘かに空しくあれば、清浄といふ、己はもうあの心にも還る事はできないのだ。沍寒の夢はつららを砥いで、風は陣々と滲みいるやうにあたりを廻りはじめてゐる。内から吹きあげる血の苦がい、灼けるやうな飛沫が叫ぶ、とうてい身はかわしきれないと。善哉《よし》!
人の闘ひはまだつづく。
牙のある肖像
※[#ローマ数字1、1−13−21]
嘗ての日、彼等こそ何事を経て来たであらうか強烈の飲料をその傷口に燃やし、行方なく逆毛《さかげ》の野牛を放つては、薪のやうに苛薄の妄想をたち割つた彼等。こころに苦《にが》い移住を告げて、内側から凍りつく鰊のたぐひを啖ひ、日毎無頼の街衢《ちまた》から出はづれては歌もなく、鉄のやうな杳かの湾流がもたらす風の、勒々とした酔ひのひと時を怖れた彼等。到るところしどろな悪草の茎を噛み、あらくれの蔦葛を満身に浴びて耕地から裡の台地へ
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