ど隔絶して、家といふものと子供とを、ただその胸へ抱き籠《こ》めるやうな生活態度を執《と》るやうになつた。
祖父に似て派手で血の気の多い長男は、海外へ留学に出たままずつと帰らない。実直で父親似と思つた次男は、思ひがけない芸人で、年上の恋人が出来、それと同棲《どうせい》するために、関西へ移つたまま音信不通となつた。母親の羽がひの最後の力は、ただ一人残つた末子の皆三の上に蒐《あつ》められた。
「おまへが、もしもの事をしたら、お母さんは生きちやゐませんよ」
少年の皆三を前にしておふみは、かういつて涙をぽろ/\零《こぼ》した。皆三は血の気で頭の皮膚が破れるかと思ふばかり昂奮《こうふん》して、黙つて座を立つて行つて、土蔵の中の机の前に腰かけた。
そこで別の世界の子供の声のやうに「蝙蝠来い」と喚《わめ》くのを夢のやうに聞いた。中にも軽く意表の外に姿を閃《ひらめ》かすお涌の姿を柳の葉の間から見て、皆三はとても自分と一しよに遊べるやうな少女とは思へなかつた……だが、さういふ少女のお涌が持つて歩き出したあの黄昏時《たそがれどき》の蝙蝠が、何故《なぜ》ともなく遮二無二《しゃにむに》皆三には欲しくて堪《
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