しさは増して行つた。醜い下半部の反比例をますます上半身に現はすのではないか。皮肉の美しさを、ます/\宗右衛門は見せつけられる。美しい娘達の上半身を見る宗右衛門の苦痛は、醜い下半部を見る苦痛と変らなかつた。
 宗右衛門はこの苦痛の為めに、追々《おいおい》娘達の部屋を訪れなくなつたのであつた。母の無いのちの一層たよりない娘達を却《かえ》つて訪ねて来なくなつたのであつた。
「おとふ様、どう遊ばしました」
 お小夜が懐かしげに父親を仰いだ。
「どうも商売の方が忙しくてな。それにお母さんが亡くなつて、家の方もなにやかや……」
 ぢつと眼を伏せてゐるお里を見て、宗右衛門はだまつてしまつた。
「おう、朝顔が綺麗《きれい》だな」
 その耳盥《みみだらい》から少し視線を上げれば、そこにはお小夜の異様な脚部――宗右衛門はぞつとして、逆に老女の顔を見上げた。
「どうだな、二人とも毎日元気かな」
 宗右衛門は四日前の夕方、こゝを訪ねたきりであつた。娘達が忙しいお辻の手から育ての侍女の手に移つてこゝの離れ家《や》に棲《す》み始めて十何年間、朝夕二回の屋敷へ往《ゆ》くさ帰るさ、必ず宗右衛門はこの部屋へ立ち寄つた。
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