特許を取って、金を儲けることだといった。
「なら、早くそれをやればいいじゃないか」
柚木は老妓の顔を見上げたが
「やればいいじゃないかって、そう事が簡単に……(柚木はここで舌打をした)だから君たちは遊び女といわれるんだ」
「いやそうでないね。こう云い出したからには、こっちに相談に乗ろうという腹があるからだよ。食べる方は引受けるから、君、思う存分にやってみちゃどうだね」
こうして、柚木は蒔田の店から、小そのが持っている家作の一つに移った。老妓は柚木のいうままに家の一部を工房に仕替え、多少の研究の機械類も買ってやった。
小さい時から苦学をしてやっと電気学校を卒業はしたが、目的のある柚木は、体を縛られる勤人になるのは避けて、ほとんど日傭取《ひようと》り同様の臨時雇いになり、市中の電気器具店廻りをしていたが、ふと蒔田が同郷の中学の先輩で、その上世話好きの男なのに絆《ほだ》され、しばらくその店務を手伝うことになって住み込んだ。だが蒔田の家には子供が多いし、こまこました仕事は次から次とあるし、辟易《へきえき》していた矢先だったのですぐに老妓の後援を受け入れた。しかし、彼はたいして有難いとは
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