不自由そうな部分を憶《おぼ》えて置いて、あとで自宅のものの誰かに運ばせた。
「あんたは若い人にしちゃ世話のかからない人だね。いつも家の中はきちんとしているし、よごれ物一つ溜《た》めてないね」
「そりゃそうさ。母親が早く亡くなっちゃったから、あかんぼのうちから襁褓《おむつ》を自分で洗濯して、自分で当てがった」
老妓は「まさか」と笑ったが、悲しい顔付きになって、こう云った。
「でも、男があんまり細かいことに気のつくのは偉くなれない性分じゃないのかい」
「僕だって、根からこんな性分でもなさそうだが、自然と慣らされてしまったのだね。ちっとでも自分にだらしがないところが眼につくと、自分で不安なのだ」
「何だか知らないが、欲しいものがあったら、遠慮なくいくらでもそうお云いよ」
初午《はつうま》の日には稲荷鮨《いなりずし》など取寄せて、母子のような寛《くつろ》ぎ方で食べたりした。
養女のみち子の方は気紛れであった。来はじめると毎日のように来て、柚木を遊び相手にしようとした。小さい時分から情事を商品のように取扱いつけているこの社会に育って、いくら養母が遮断《しゃだん》したつもりでも、商品的の情事
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