微笑そのものの静けさで、ぴたりぴたりついて来て離れない。
 せめて吾妻《あずま》橋まで――今くず折れるのはまだ恥かしく、口惜しい――だが室子はその時すでに気を失いつつあった。

 姉ちゃん、姉ちゃんと蓑吉の呼ぶ声がしたかと思った。室子が気がついてみると、蓑吉はいなくて、自分を抱き起しているのは後の艇にいた青年であった。



底本:「岡本かの子全集5」ちくま文庫、筑摩書房
   1993(平成5)年8月24日第1刷発行
底本の親本:「老妓抄」中央公論社
   1939(昭和14)年3月18日発行
初出:「婦人公論」
   1939(昭和14)年1月号
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2010年2月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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