たということの孤独の寂しさ、また晴れがましさ、責任の重苦しさと権利の娯しさ。
ですが、折角ここまで育ち上ったものに、またもや成長の破壊が来て、これからさき何度も死ぬような思いをするのはまだしものこと、女の身として、一度々々あの醜さになるのを自分の眼でまざまざと見なければならないということは、考えてもぞっといたしますわ」
可哀そうに唖《おし》のような自然、それでいて、意志だけは持っている。その意志を人によって表現したがっている。一体、人というものは懶《なま》けもので、小楽《こらく》をしたがる性分である。驚異を与えないでは動かない。この島山に住む人は、山のわたくし同様、驚異でいのち[#「いのち」に傍点]に傷目をつけられ、美しさにいのち[#「いのち」に傍点]の芽を牽出され、苦悩に扱《しご》かれて、希望へと伸び上がらせられなければならない。
「わたくしは、それを人に伝えるために選まれました。
父よ。あなたが、山の神の眷属としてわたくしを、ただ眷属中での褒められ者として育つのを望んだ娘は、この福慈岳に籠れる選まれた偉大ないのち[#「いのち」に傍点]の中に綯《な》い込められ、いまや天地大とも
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