が、それは許されないことである。今宵のこの庭のかがり火は純粋な神のみが使う資格のある聖なる祭の火であった。一点の人情をつけて恋々西国より東国へ娘の生い立ちにを見に下った螺の如き腹にえび蔓のような背をした老翁は、たとえ自然には冥通ある超人には違いないが、なお純粋の神とはいわれなかった。生きとし生けるものの中では資格に於ていわば半人半神の座に置かるべきものであった。
娘の福慈《ふくじ》の神もそれをいい、純粋の神の気を享けて神の領から今年、神がはじめてなりいでさせ給うた神のなりものによって純粋の神を餐《あえ》まつることのよしを仲立に、一元に敏《と》く貫くいのちの力により物心両様の中核を一つに披《ひら》いて、神の世界をまさしく地上に見ようとする純粋にも純粋を要する今宵の祭に、鶏の毛ほどでもこと[#「こと」に傍点]人の気のある生けるものは、たとえ親でも遠慮して欲しいといった。娘の神が神としていちばん大事な修業をする間、少しでも娘の気を散らさないよう、爪の垢《あか》ほどの穢《けが》れを持来さしめぬよう心懸けて呉れるのがほんとの親子の情だといった。
山の祖神は、山の裾野へさしかかって四日目にもう
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