砂礫の肉と皮を覆った。
しばらく、物|憂《う》く、嫉《ね》たく、しかも陽気な世の中が自分に見《まみ》えた。自分は娯しい中に胸迫るものを感じ続けて来た。
第三の青春を感じた。
同じく物恋うるこころに変りはないけれども、自分はそれにも増して、「知る」ということの惧《おそ》ろしさとうれしさを始めて感じ出した。これほどに壊れても裂けても、また立上って来る自分。蘇っては必死に美しさに盛返そうとするちから[#「ちから」に傍点]。これは一体何だろう。他と競いごころを起すこの自分は一体何だろう。自分を自分から離して、冷やかに眺めて捌《さば》き、深く自省に喰い入る痛痒《いたがゆ》い錐揉《きりも》みのような火の働き、その火の働きの尖は、物恋うるほど内へ内へと執拗《しつこ》く焼き入れて行き、絶望と希望とが膜一重となっている胸の底に触れたと思ったとき、自分はまた裂けた。蘇って壊れた自分を観ると、そこにはまた第四の肋骨が出来上っていた。
自分はそれに砂礫の肉と皮をつけた。
しばらく、明暗が渦雲のように取り組む世の中に眺められる。自分を剖《さ》き分けて、近くへ寄ってみれば、焼石、焼灰の醜い心と身体、それは自分ながら吐き捨ててしまい度いようである。けれども、やっと取り纏めて、離れて眺めみれば、芙蓉のように美しく、「誰《た》」を魅する力があるもののようでもある。それにつれて、希望《のぞみ》という虹がうつらうつら夢みられて来る。
美しくも力強い希望《のぞみ》。だが果して、その希望を実現し得られる力が自分の中にあるのだろうか。その力としてありそうに思える火の背梁だけは確に逞しくなっている。
しかしまたこの大きな虹のような希望を捉えようと考え出したことがおおそれた想いのようでもあり、身体に激しい慄えが来る。かくてまたもや自分は裂けた。
「わたくしは只今、最初から数えて八枚目の肋骨まで出来ております。わたくしの身体の根は、この島山の北の海岸にひき、また南は遠い南の海の硫黄を吐く島までひいています。わたくしの身体の続きの上で同じく火を吐く幾つかの眷属。この島山に小さいながらも姿は等しい三十余の山々。それ等はみなわたくしを母のようにしております。わたくしに較ぶ山はございません。わたくしは確かに選まれたという自覚を今更どう取り消しようもございません。それにつれて、幼ない競い心も除かれました。選まれ
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