家の娘という位置に反撥《はんぱつ》して、縁談が纏《まとま》りかかった間際になって拒絶した。そして中産階級の娘で女性解放運動に携わっている女と、自分の主義や理論を証明するような意気込みの結婚をした。
平凡な鏡子が恋に破れたとき、不思議に大胆な好奇的の女になった。鏡子は忽《たちま》ち規矩男の父の結婚談を承知した。父は鏡子の明治型の瓜実顔《うりざねがお》の面だちから、これを日本娘の典型と歓《よろこ》び、母は父が初老に近い男でも、永らく外国生活をして灰汁抜《あくぬ》けのした捌《さば》きや、エキゾチックな性格に興味を持ち、結婚は滑らかに運んだ。
松林の中の別荘《ヴィラ》風の洋館で、越後のいわゆる、人生の本ものを味わうという家庭生活が始まった。
「しかし人生の本ものというものは、そんな風に意識して、掛声して飛びかかって、それで果して捉《とら》えられて味わえるものでしょうか。マアテルリンクじゃありませんが、人生の幸福はやっぱり翼のある青い鳥じゃないでしょうか」
と規矩男は言葉の息を切った。
父はさすがにあれだけの生涯を越して来た男だけに、エネルギッシュなものを持っていた。知識や教養もあった。そ
前へ
次へ
全171ページ中89ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング