の学校を出て、入学試験の成績もよく、上野の美術学校へ入った。それから間もなく逸作の用務を機会に、かの女の一家は外遊することになった。
 在学中でもあり、師匠筋にあたる先生の忠告もあり、かの女ははじめ、むす子を学校卒業まで日本へ残して置く気だった。
「ええ、そりゃそうですとも、基礎教育をしっかり固めてから、それから本場へ行って勉強する。これは順序です。だからあたしたち、先へ行ってよく向うの様子を見て来てあげますから、あんたも留守中落着いて勉強していなさい。よくって」
 かの女は賢そうにむす子にいい聞かせた。それでむす子もその気でいた。
 ところが、遽《あわただ》しい旅の仕度が整うにつれ、かの女は、むす子の落着いた姿と見較《みくら》べて憂鬱《ゆううつ》になり出した。とうとうかの女はいい出した。「永くもない一生のうちに、しばらくでも親子離れて暮すなんて……先のことは先にして――あんたどう思います」逸作は答えた。「うん、連れてこう」
 親たちのこの模様がえを聞かされた時、かなり一緒に行き度《た》い心を抑えていたむす子は「なんだい、なんだい」と赫《あか》くなって自分の苦笑にむせ[#「むせ」に傍点
前へ 次へ
全171ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング