た。 
「あなた、ママンに何てあたしを紹介したのです?」 
「よく捨てられる女って」
 それを聞くと娘は、やや興を覚えた張合いのある顔になっていった。
「それは、まだ真実を語っていない。もう一度、ママンに紹介しなさい。よく男を捨てる女って」
 そして、彼女はうれしそうに笑った。神秘的に悧巧《りこう》そうな影を、額から下にヴェールのように持っているこの若い娘が、そうやって笑うとき、口の中に未だ発育しない小さい歯が二三枚|覗《のぞ》かれた。その歯はもう永遠に発育しないらしく、小さいままでひねこびた感じを与えた。
 むす子は笑いながら娘の抗議を母親に取次いでこういった。 
「こんなこといってますがね。この女は決して一ぺんでも自分から男を捨てた事はないんですよ。惚《ほ》れた男はみんなきっと事情が出来て巴里から引上げなくちゃならなくなるんです」 
「どうしてなんだろう」 
「どうしてですかね」
 むす子は、ただしばしば男に訣《わか》れねばならなくなる運命の女であるというところに、あっさり興味を持っているようだった。
 ジュジュと仲間呼びされるその娘は、だんだんむす子の母に興味を感じて来た。娘は持
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