みあ》った。二人は悲しもうか笑おうかの境まで眼を瞠合ったまま感情に引きずられて行ったが、つい笑って仕舞った。二人は激しく笑った。
「どうして笑うのよ」
「おかあさん、どうして笑うんです」
「あんたがいつか言ったこと想《おも》い出したからよ」
「どんなことです」
「あんた、いつか、こういったわね。僕、おかあさんにそっくりな小さい妹を一人得られたら、ぐいぐい引張り廻して僕の思う通りにリードしてやるって、あれをよ」
「ふんそんなことか。けど僕やめにしますよ。なにしろ、おかあさんという人はスローモーションで、どうにも振り廻しにくいですからねえ」
むす子は唇をちょっと噛んで、面白そうに、かの女を額越しにちょっと見た。
「ついでにおかあさんに云っときますがね、いくら僕が寂しかろうといって、むやみに、お嫁さんの候補者なんか送りつけたりするのはご免《めん》蒙《こうむ》りますよ。やり兼ねないからね。いくらお母さんの世話でも、全くこれだけは断りますよ」それからはじめて手を出して卓の上へ組み合せて、
「僕、おかあさんに対する感情の負担だけでも当分一人前はたっぷりあるのだからなあ」むす子は言葉尻《ことばじり
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