無造作な立ち上り方をして拍手した。
 靠れ壁の隅に無精らしく曲げた背中をもたせて笑ってばかり居る若い娘と、立ち上った群の中に、もう一人長身の若い娘が、お出額《でこ》の捲髪《カール》を光線の中に振り上げ振り上げ、智慧《ちえ》のない恰好《かっこう》で夢中に拍手しているのを、かの女は第一にはっきり見て取った。かの女はちょっと彼等に微笑しながら目礼したけれど、妙な一種の怯《おび》えが、むす子を彼等から保護するような態度を、かの女にさせた。かの女は思わず息子の身近くに寄り添った。そのくせかの女はまたすぐあとから、彼等に好感を覚えてのろのろと彼等の方を見返した。
「おかあさん、何してるんです、どうせあいつら、あとで僕たちの席へ遊びに来ますよ」
「あんた、とても、大胆ね、こんな人中で、よく平気であんな冗談云えるのね」
 そういいながら、かの女は却《かえ》って頼母《たのも》しそうにむす子の顔をつくづく瞠入《みい》った。
 むす子のこんなことすら頼母しがるお嬢さん育ちの甘味の去らない母親を、むす子はふだんいじらしいとは思いながら、一層|歯痒《はが》ゆがっていた。自分達は、もっと世間に対して積極的な平気に
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