る外科病院の青年医を両親に見せることにした。かの女達は、むす子を頼んで置くその青年医を一夕《いっせき》、レストランへ招待した。かの女達は、魚料理で有名なレストランへ先に行っていた。むす子があとから連れて来た青年は、むす子より丈が三倍もありそうな、そして、髪も頬《ほお》も眼もいろ艶《つや》の好いラテン系の美丈夫だった。かの女はこんな出来上った美丈夫が、むす子の友達だなんて信じて好いのかと思った。むす子を片手で掴《つか》んで振り廻《まわ》しそうにも思えた。「なに、ぼんやりしてんの、お母さん。」むす子は美男子に見惚《みほ》れて居るような場合、何にも考慮に入れない母親の稚純性を知って居て、くすり[#「くすり」に傍点]と笑った。美青年も何かしら好意らしく笑った。美青年の笑顔は、まるで子供だった。そして彼女は安心した。柄こそ大きくても青年は医科大学を出たばかりで二十五歳の助手だった。そうは云っても二十歳ばかりの異国画学生のむす子が、よくこんなしっかりした青年を友人に獲得したものだと一向にだらしのないような自分のむす子のどこかにひそむ何かの伎倆《ぎりょう》がたのもしく思われた。かの女の小柄なむす子―
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