るものだ」と単にこう思っただけだったが、直《す》ぐそのあとから、しんしんと骨身に痛みを覚え出した。


 かの女は、無事に日本の旅行を終ってフランスへ帰航するK・S氏夫妻を送って仕舞い、外人の送迎にやや疲労を感じたあとの心身を、久しぶりで自分の部屋のデスクの前に休めていた。そこへ郵便が来た。春日規矩男からである。
 その後ご無沙汰《ぶさた》しましたが、僕は今仙台市内のある住宅街に棲《す》んでいます。僕はあなたが仰言《おっしゃ》った『無』それ自身充足する積極的ないのちのあるということが気になり、これを研究立証してみたくて、普通なら哲学でしょうが現代の諸事情も参酌《さんしゃく》して、純枠科学理論の物理学を選びました。あなたにお訣《わか》れしたあの年の秋東北大学の理科に入り、今では研究室の助手をしています。今度は春の休みで一寸《ちょっと》上京しましたので直ぐにこちらへ引き返しました。研究の結果は卒業論文としました。それに尚《なお》研究を加えて一冊の書物に纏《まと》めますから、その時お送りいたしますとして今は申し上げません。それよりも僕は、三年前に母を失いましたことをお知せいたします。それから
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