る厄介な運命に引きかえて、むす子は到るところで愛され、縦横に振舞って、到るところで自由な天地が構えられる。何という無造作な生活力だろう。わが子ながら嫉《ねた》ましく小憎い。だがしかし、彼は見た通りの根からの無造作や自然で、果して今日のような生き方が出来ているだろうか。いや、あれにはあれだけの苦労があって、いまも底には随分|辛《つら》いものをも潜めているのではあるまいか。そういう悲哀の数々が自ずと泌《し》み出るので、たとえ、縦横に振舞い、闊達《かったつ》に処理するようでも、人の反感を買わないのではあるまいか。一郎はずっと幼時、かの女が病弱であったある一時期、小児寄宿舎にやられていた。そこで負けず嫌いな一郎は友達と喧嘩《けんか》するときよく引掻《ひっか》くので「猿」というあだ名をつけられていると聞いて「男の子やもいとけなけれど人中に口惜《くちを》しきこと数々あらん」とかの女は切なく詠《うた》ったこともあった。子供のときの苦労は身につく。しかし、その苦労を生《なま》で出さずに、いのちの闊色《かっしょく》にしたところは、わが子ながらあっぱれである。やっぱり根に純枠で逞《たくま》しいものを持って
前へ 次へ
全171ページ中153ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング