いるかも判らない。かの女は身づくろいをしながら、どうかむす子がK・S氏の脳裡に与えているむす子の母の像を、自分は裏切り度《た》くないものだと、しきりに念じた。
 傲岸不屈《ごうがんふくつ》の逸作も、同じようなことを感じているらしく、珍しく自分の方から、かの女の支度を促しに来ながら云った。
「いやになっちゃう。子供が世話になってる人というと、何だか急所を掴《つか》まえられているようで、一目置いちまう。人間もから[#「から」に傍点]意気地がなくなっちゃう」


 K・S氏は思ったより若く、才敏な紳士であった。身なりも穏当な事務家風であった。しかし、神経質に人の気を兼ねて、好意を無にすまいと極度に気遣いするところは、世俗に臆病《おくびょう》な芸術家らしいところがあった。若夫人はわきに添って素直に咲く花のように如才なく、微笑を湛《たた》えていた。
 ホテルから早速案内した銀座の日本料理屋では、畳に切り込んであるオトシ[#「オトシ」に傍点]に西洋人夫妻と逸作は足を突込み、かの女一人だけ足を後へ曲げて坐《すわ》って、オトシ[#「オトシ」に傍点]の上の食台に向っていた。窓からは柳の梢越《こずえご》し
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