といつも思ってますって、一郎君が云われたことです、とさ」
かの女は手を合わせて拝み度くなった。それは何処へかわからない、ただ有難い。徒《いたず》らに大きな理想を持っても万人は愚か、自分自身でさえ幸福になり得ない非力な人間が、ともかくもわが子とは云え、一人立派に成長した男子を今や完全な幸福感に置いている――それでまた親の責務の一端が肩から降りた気もするのである。かの女はいつも思っている。こんな生きる責務の重い世の中へ親あればこそ生れ来たった子。この世に出ようという意志が子にあって、自ら進んで出て来たわけでもないものを、親は先《ま》ず本能愛以外の明瞭《めいりょう》な責任観念からも、この世に於ける子の運命の最大責務者とならなければならない。その子に仕合せと一言でも感謝されるまでには、幾多の親の責任感と切実な哀憐《あいれん》が子に送られた結果なのである。そしてそれはまた、子に責任感を十分感じる親の報いられたる幸福でもあらねばならぬ。
数年間に巴里のむす子からかの女に宛《あ》てて寄越した手紙は百通以上にもなる。自分の現状を報じ、芸術の傾向を語り、ちょっとした走り書きの旅行便りからも、かの
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