た超現実的な娘が、これほど大きくなったむす子を持つまでに、この世に成長したのは不思議である。そして、芸術という正体の掴《つか》み難いものに、娘時代同様、日夜、蚕が桑を食《は》むように噛《か》み入っている。
 逸作には、人間の好みとか意志とかいうもの以上に、一族に流れている無形な逞《たくま》しいものが、かの女を一族の最後の堡塁《ほるい》として、支えているとしか思えなかった。それは既に本能化したものである。盲目の偉大な力である。今や、はね散って、むす子の上に烽火を揚げている。逸作は実に心中|讃嘆《さんたん》し度《た》いような気持もあり乍《なが》ら、口ではふだんからかの女に「芸術餓鬼」などとあだ名をつけてからかって居る。


 或る日勤め先から帰って来た逸作がかの女に云った。
「おいおい、この間|巴里《パリ》から帰って来た社(逸作の勤め先)の島村君が態々《わざわざ》僕に云いに来たんだ。一郎君によく巴里で逢《あ》いました。実にしっかりやっておいでです。僕が何よりも嬉《うれ》しく思ったのは、一郎君が僕は僕をこんなに暮させていて呉《く》れるあんな親を持って仕合せです。否仕合せと思わなければならない
前へ 次へ
全171ページ中138ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング