見ることが出来た。
一人は鼻の大きな色の白い、新派の女形にあるような顔をしていた。もう一人は、いくら叩《たた》いても決して本音を吐かぬような、しゃくれた強情な顔をしていた。
どっちとも、上質の洋服地の制服を着、靴を光らして、身だしなみはよかった。いい家の子に違いない。けれども、眼の色にはあまり幸福らしい光は閃《ひらめ》いていなかった。自我の強い親の監督の下に、いのちが芽立ち損じたこどもによくある、臆病《おくびょう》でチロチロした瞳《ひとみ》の動き方をしていた。かの女は巴里で聞かされたピサロの子供の話を思い出した。
かの女がむす子と一緒に巴里で暮していたときのことである。かの女はセーヌ河に近いある日本人の家のサロンで、永く巴里で自活しているという日本人の一青年に出遇《であ》った。
「僕あ、ピサロの子を知っています。二十歳だが親はもう働かせながら勉強さしています」
青年が何気ない座談で聞かせて呉《く》れたその言葉は、かの女に、自分がむす子に貢いで勉強さしとくことが、何かふしだら[#「ふしだら」に傍点]ででもあるような危惧《きぐ》の念を抱かした。
しかしかの女はずっとかの女の内心で
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